第二十話

「名前ちゃーん、何してるの?」
「へ・・・・・・うわあ!!」

隅で座って泣いて声を掛けられたので顔を上げて見ると、目の前に甲斐であった猿飛佐助の姿があった。

「猿飛佐助っ!!」
「はいはい、俺様だよー。
 ・・・っていうか、わざわざ名前全部言わなくてもいいんだよ。
 佐助あたりでいってもらえればいいから」
「・・・うん、わかった。
 それで、どうしたの?」
「俺もよくはわからないんだけど。
 旦那に頼まれたんだ、名前ちゃんの様子を見てくれって、嫌な予感がするって」


え、幸村さんが?

「何か泣いてる気がするから行って来い、ってさ。
 ほんと人遣いが荒いよねー」

佐助の声はまったく入ってこなかった。
幸村さんが、泣いてる気がするからって・・・。
私は確かに月を通して、兄さんに語りかけたつもりだ。


もしかして、幸村さんは兄さんと似ているのかな?
もしかしてもなくて似てるんだけど。
何だか不思議な気分になったりしてしまう。


「佐助さん・・・、私あなたの言ってたことが何となくわかった気がしました」
「俺様の・・・」
「・・・同族嫌悪、って。
 私しているのかもしれません、もう政宗さんに合わす顔がありません」
「・・・・・・・・・なら、甲斐に来るかい?
 名前ちゃんが望むのならば連れて行ってあげる」
「え?」

佐助は私の手を取ろうとする。
ここで私が甲斐に行ったらどうなるの?
政宗さんとはお別れ・・・?

佐助の手と私の手の距離が一センチになったところでー


「名前ちゃん、触るな! 
 そいつは偽物だ!!」


後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
姿は猿飛佐助・・・。

・・・あれ?
私の前に佐助が二人。


「どっちが本物?」
『俺様が!』
「・・・いやいや、どっちだよ。
 私的には後から来た方が本物の可能性が高いと思うんだけど?」


「ばれていたのであれば、仕方ない・・・」

そう言って、初めから私といた方の佐助の姿をしていた忍びが、白い煙に包まれて、姿を現した。
・・・胸の家紋に見覚えがあった。
これは豊臣のだ。


「へえー、やっぱり豊臣の忍びか。
 ・・・最近奥州と甲斐を往復してたのは」
「貴様わかっていたのか?」
「竹中、だっけ?
 確かにあいつなら共倒れをさせそうな気もするから納得もいく。
 それで、名前ちゃんをどうするつもりだ?」
「それはお楽しみだな・・・」

豊臣の忍びはそう言うなり、私の体を抱き上げて空高く跳んだ。
佐助が私を追いかけようとするにも、周りから一斉に多数の忍びが現れて、それは不可能となった。


「大人しくしておけば、害は加えない」

そう耳元で言われ、私はそのまま動けなかった。
・・・何でだろう、この世に未練なんてないはずなのに。
死んでもいいって思ってたのに。



私の頭の中に政宗さんの姿だけが浮かんでいた。








  


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