第六話
そして、政宗さんの頬に唇を当てた。
「おい、期待させといて何だよ!」
「・・・・・・・・・」
「名前?」
「は、は、−」
「は?」
「破廉恥いぃぃぃぃっ!」
私は反射的に政宗さんに手を上げてしまい、そのままクリーンヒット。
その跡は赤く腫れた。
「ご、ごめんなさい!やっぱりこういうのは無理です!
不純異性交遊など私にはできません!破廉恥です!!」
思い出した途端に恥ずかしくなって顔がかなり熱い。
きっと私は真っ赤なんだろう。
手を上げてしまったことは申し訳ないんだけど・・・だって恥ずかしいもん。
顔を会わせられず、とっさに手で覆い隠した。
「・・・落ち着け」
部屋の中に淡々と響いた政宗さんの声。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・。
今までお世話になりました、この度は手を上げてしまったこと本当に心の底から申し訳なくー」
「おい、名前!」
「ーっ!?
あ、ごめんなさい。混乱していました・・・」
なんとか、私も落ち着いた訳だけど申し訳なさがどっと溢れでる。
・・・それにしても、私がここまで叫んだのはここでは初めてだった。
政宗さんもちょっと驚いてるようだったし。
「俺は別に大丈夫だ。
それにしても、アンタ真田に似てるな」
「真田?
確かに私は真田ですけど」
「いやいや、甲斐のおっさんのところの、真田幸村だ。
いつも暑苦しく叫んでやがる、ま、アンタよりは素直だな」
「まあどうせ、私は素直ではないですけど・・・」
「そういうことじゃねぇよ」
「え?」
改めて聞き返すと政宗さんは何事もなかったように笑った。
「あの反応じゃアンタfirst kissもまだだったか?」
「どうせ初恋だってまだですよ」
「Ha! それはまた珍しい奴だな、俺が相手になってやってもいいぜ?」
「間に合ってますから、遠慮しておきます」
「遠慮ばっかしやがって。でも、言っておくがー」
政宗さんは優しく笑いながら私を見た。
「今アンタの居場所はここだ」
まるで、小さな子供を安心させるかのように。
「だから俺はアンタの全てを受け止めてやる覚悟はあるぜ?」
”その言葉は温かかった”
そう本来思うのが普通だろう。
でも、私にはどうしても受け入れられない言葉だったりもした。
だって、私が見てきた世界で誰も偽りの私を疑うこともなく、私自身を見つめてくれた人はいなかった。
・・・いや、兄さんは疑ったかな?
でも、私が一方的に突き放したのかもしれない。
受け入れられるのが怖い。
「政宗さん、ありがとうございます。
私は今十分幸せですよ」
私はそう言い残し、部屋を出た。
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