第五話

「名前さん、政宗様のところへ持って行ってくださいますか」
「あ、はい!」



月日は流れいつの間にか、本格的に私もこちらでの生活が慣れてきた。
別に戻りたいと思ってる訳もないけれど、向こうがどうなってるのかは気になる。

友達、と呼べる人は多いつもりだ。
・・・まあ、その人たちを私は信じてきたかとか大切に思ってるのか、そういうことを聞かれたら何も答えられないけど。

心配してくれる人はいるのか、それともいないのかー、
少し興味本意で知りたくもなってしまう。

・・・そして、兄さん。
妹の私がトラックに轢かれたって言う事実があなたに伝わってるのかな?
心配してるかな・・・。

今思えば、兄さんは普段から暑苦しかったりして周りに被害を受けさせたりするくせに極度の心配性だった。


『俺が絶対に守ってみせる』


両親が亡くなった時、親戚の家へ行くべきだったんじゃないかと思った私に兄さんが言った言葉。

嘘偽りなしで接してきたとは言えないけど、私は兄さんがあの世で大好きだったと思う。
家族故、私にも一応人間らしさは有ったんだと思うとほっとする。


「政宗さん、お茶をお持ちいたしましたから」
「I see.」
「失礼します」

政宗さんは今日はいつもとは違い、ちゃんと政の仕事をしていた。

「今日はまた熱心にいたしておりますね」
「まあな、さすがにそろそろしねぇと小十郎に怒られちまう、それだけは勘弁だ。
 それに、今日だけじゃねぇ you see?」
「いやいや、”you see?”とか言われましても。
 私がこちらにお邪魔させていただいてからは今日みたいにご自分からなされているのは初めて見ますけど・・・。
 正直かの有名な伊達政宗がそんな方だとは思ってませんでしたけどね」
「どんな風に思ってんだ!
 奥州筆頭は伊達じゃねぇ」
「はいはい、じゃあ邪魔するのも悪いですし、失礼させていただきますね」
「・・・・・・いや、ちょっと待て」
「え、−?」

失礼しようと立ち上がったらとっさに手を引かれ、よろけた私は政宗さんの膝へ座った。

「ご、ごめんなさいっ」
「気にするな、しかしアンタ・・・抱き心地がいいもんだな」
「軽く変態チックなこというのはやめてくださいな、あと早く腕を離してください。
 下りられませんから」

座った途端に腕を回されたが、腕は一向に離される様子はない。

「政宗さーん?」
「ちょっとばかし、休息をとっても罰はあたらねぇ」

政宗さんはそう言って私を抱きしめたまま。
・・・きっと、抱き枕ってこういう思いで皆に抱かれてるんだね。


でも、さすがに熱くなってきた。
季節は夏、奥州だとて暑い!
なのに、政宗さんは暑さをあまり感じない体質のせいか汗一つかいていない。
本当、羨ましい話だ。

私の方が汗が止まらなくなったので、手を剥がし膝から下りた。

「どうした?」
「いえ、そろそろ私の方が汗をかいてきましたのでさすがに政宗さんに汗を擦り付ける訳にはいけませんから。
 それに、私はぬいぐるみでもないんですし、増してや抱き枕と言ったような便利グッズでもありませんよ?」
「別に汗はいいが」

いやいや、乙女心がそれを許せるわけがありません!
と言いながら、乙女心って何ですかね?

「政は大切ですから頑張ってくださいね」
「ああ、アンタまた後で来い。
 何か抱いてたら癒されるから」

何をおっしゃってるんでしょうか、この変態。

「だから、私はー」
「じゃあ違う意味で抱いてやろうか?」

政宗さんがニヤリと口に弧を描きながら言った。
違う意味で抱かれる?

「Can do not be silly; this metamorphosis・・・」

私は呆れながらも英語で返事をした、少し悪口を加えながら。

いくら政宗さんでもわからなかったらしい。
そりゃそうか、何しろいくらわかっても戦国時代だもんね。

(冗談は休み休み言えよ、この変態が・・・)

だなんて、この人は言われたことはないだろうね。

「おい、さりげなく何変態扱いしてる」
「え、わかるんですか?」
「いや、目が語ってた。
 しかし、本当に言ってたとはな・・・」
「ごめんなさいっ、冗談ですから、ね?」
「Ahー?ならそれなりに”変態”な俺に態度で謝罪して見せろ」

後から襲ってきた罪悪感と意味のよくわからない政宗さんの言葉に焦ってしまう。
どうしたらいいの?

「態度って・・・私どうしたらいいですか?」
「kissとかか?」
「は、破廉恥なっ!!」
「おいおい、その歳でそんな反応するなよ・・・」
「生憎私はそういうのの免疫がないんです!
 ・・・でも、どうしたらいいんですか」
「ほらさっさとしろよ、なんなら俺がアンタにしてやってもいいぜ?」

するのも嫌だし、されるのも嫌だ。
政宗さんが見つめているのは私の顔、しかも唇の方。
・・・唇を奪われるのは何か嫌だ。

「ま、政宗さん・・・嫌いにならないでくださいますか・・・・・・」

頭に過るのはそんなこと。
お世話になっている人を冗談でも変態扱いし、その上キスだよ・・・。

「俺はアンタみたいな奴好きだ、見てて飽きない」

政宗さんはそう言って私の顔を骨張った大きな掌で包み込む。
私はその掌を取り、顔を近づけさせた。











  


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