05.世界一の憎悪

サヤカ姉様が出した、石田の名。
それに従って、私たちは大坂の地へとやってきた。


「あんたが石田って奴かい?」


他人の敷地なのに、ずかずか入っていく兄貴の姿についため息が出た。
しかも、当の石田さんの方の表情は非常に堅い。


「誰だ…貴様のような男を招いた覚えはない。今すぐにここを出て行け!…もしくは、死ね」


一瞬耳を疑ったのは言うまでもない。
客として招かれた覚えはなくても、初対面で死ぬように言うとは予想もしなかった。

兄貴としても驚いた顔をしたけれど、すぐさま石田さんと槍を混じらせた。
状況には適さない楽しそうな顔。
苦笑が漏れるけれど、強い相手との交わりの中での精神の高揚を否定することはできない。


ただひとつ。
よそ様の城の床に槍を突き立てていたので、修理費を請求されるのではないかと本気でハラハラしていた。


そんな私の心配をよそに二人のぶつかり合いは続く。


「俺は長曾我部元親だ!
 知らないかい?西海の鬼った、この俺のことよ!!」

「長曾我部…元親…だと?
 今更何をしにきた?秀吉様に歯向かった罪を償いに来たのか?
 もっと早くから臣従していたら、家康の壁にもなりえたものを…」

「家康、だとっ」


今一番私たちの中で問題になっている人物の名前が出て、兄貴が大きく反応した。
後ろにいた私も例外ではない。


「私の首を手土産にするつもりか!!!!!死ね!!!!!」


今度は石田さんが兄貴が呟いた言葉に声を荒げた。
サヤカ姉様から、石田さんは家康さんをひどく恨んでいるとは聞いていた。
急に石田さんの刀を振るう腕の動きも早くなり、殺気も増す。


「兄貴!!これ以上は―」


このまま埒があかない様子を見ていけるほど、私は落ち着いた人間ではない。
無駄な血は少しでも流したくはない。その思いで止めに入ろうとしたけれど、私ではなく外野からの声が二人を止めた。


「アニキーーー!家康さんのところに行った安兵衛が…」


近くにいた私に渡されたのは徳川の旗。
四国壊滅の時に落ちていたものと同じだ。


このことが何を意味するか。
姿勢を崩した兄貴の姿が意味を成す。


「安兵衛が…死んだ?」

「貴様の内の慟哭が聞こえる。だが、譲りはしない。
 貴様はそこで蹲っていろ」

「………西軍に入れさせてもらうぜ」


正直こんな流れになるとは思わなかった。
それは、きっと家康さんのことを信じてたから…いや、今も信じていたいから苦しい顔をしているのだろう。


刀を収めた石田さんが、鞘で指した城の中。
静々と並んで進んでいく。


『家康さんを信じたいのに、信じきれない。』


その思いが私たちを大戦へと誘うのだった。




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やっと次刑部が出てきますね
出る出る詐欺ごめんなさい(´・_・`)




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