01.背中を負って

群雄割拠の時代。
幸か不幸か、私の父は土佐の地でそれなりに力を持ち、人の上に立つ人間だった。
父の死後は、兄が家督を継ぎ、土佐だけでなく、四国まで手中に入れた。



今から少し話すのは、その兄の元親と私の昔話。

当時、姫と呼ばれ、臆病者だと罵られた兄。
だけど、私にとっては優しくて、いつも私の遊び相手をしてくれる唯一の人だった。

他にも兄弟はいたけれど、末っ子の面倒なんて見る気があるかどうか別にして、みんな忙しい人だった。
私には4人の兄と、3人の姉がいる。
長男が家臣から心配されるために、期待をかけられた兄3人。それと、嫁入りのために育てられる姉3人。

遊び相手はたった1人だった。
人形遊びに、双六。私も勿論大事な政略道具として、それなりの教養は教えられてきた。
ただ、兄との遊びに勝るものなんてなく、与えられたものをこなしては早々に部屋を飛び出していた。


『千祥、また抜け出してきて…』

『わたし、ちゃんとやらなきゃいけないことはやってきたもん!ねえ、双六しようよ!』

『仕方ないな、もう』


そんな会話を交わしたのも数え切れないくらい。
だけど、年を重ねるにつれて会える日は減っていった。

期待が弟たちにかかっているといっても、嫡男である兄。父は兄以外の家督継承を認めなかった。
そんな兄が戦に出ることは決まっていること。
命懸けの戦に、今のままでは出せない…みんなわかっていた。

もう姫と呼ばれた兄には会えない。そう思った。

私はただひとりぼっちになってしまうのが怖くて、寂しくて。
気付けば、男兄弟に混じって刀や槍を掴んでいた。






「千祥!」

「何よ、兄貴」

「たまには双六とかどうだい?」

「ったく、兄貴は何だかんだ言って千祥の前では姫っぽいよな」

「親貞っ!?おまっ、どこから!?」

「へいへい。もうみんなでやろうよ、兄妹なんだからさ」

「じゃあ俺も混じる」

「俺も!」

「親泰に、親益っ…ほんと、どこからともなく湧いてきやがって…」



もう上の姉たちは嫁に出て、城にはいない。一方で、婚期を逃してしまいかけている私。
だけど、上の兄たちを見ていると心地よくて。

嫁ぐのはもう少し先でもいいかな。

戦国の世に、泡沫の如く散る命。
後悔はなかった。



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刑部連載始めました!
ちなみに、ヒロインの兄の呼び方は元親以外、○○兄様だったりします




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