11.はじめてのおつかい

さすがに女の子を、特に鶴姫ちゃんを目の前にして不安なところを出すまいとしていたんだけど、不安がばれてないかは確かではなかった。


何しろ、気を張ったままだと疲れるのは言うまでもない。
大坂で暮らしてしばらく経つが、何も問題は起こっていない。むしろ、平和すぎるぐらいだ。
そんな状態が続けば、自然とボーっとしてしまうこともあった。


そんな矢先のことだった。


「千祥さん!良かったら城下へ行ってみませんか?」

「城下?」

「ええ。大谷さんにおつかいを頼まれたんです。それに、大坂は商人の方々がとてもにぎやかに商いを営んでいるそうで、楽しいんだと。
 大谷さんにおつかいの分も合わせてですが、しっかりお小遣いはもらってますから、一緒にどうですか?」


鶴姫ちゃんが持ち上げた袋を見れば、たんまり入っていることがわかる。
どれだけ買わせるつもりなのだろうか。
絶対大谷さん将来子供に甘いんだろうな、勝手にそう考えて笑い声をもらす。


「それじゃあ行こう!城に閉じこもってばっかだと気も滅入っちゃうよね」

「はい!それでは行きましょうか!」











少し前に意気揚々と出てきたはずなのに。
大谷さんから頼まれたおつかいの物はお酒。それだけ。
だと言うのに…そのお酒、一升瓶がいくらしたことか。高級品だったらしい。
あっという間に持たされたお小遣いの8割以上を持っていった。


「残ったものだと…あまり高価なものは買えませんね。せっかく髪飾りや香り袋が並んでいますのに」

「そうだね、うーん…どうしようか」

「せっかく外に出られたのに残念です」


そういえば、鶴姫ちゃん。大事な大事な巫だから、海以外滅多に外へは出られないんだっけ。
しかも女同士なんて珍しいだろうに。


「…大丈夫、持っているお金が少なくても楽しめるよ。
 ところで、鶴姫ちゃん。甘いものは好き?」

「ええ、好きですけど…」


「お団子食べる分にはまだ残ってるよね。よし、甘味処に行こう!」


鶴姫ちゃんのことだから、普段食べている甘味は高価な和菓子とかなんだろう。勝手な偏見ではあるけれど。
だけど、お団子がおいしいのは事実だし、食べるところがいつもと違えばきっと満足感は大きくなるはず。

それを見越して、お持ち帰りで団子を二本購入。


「え、食べないんですか?」

「甘味処で座って食べるのもいいけどさ。やっぱりさ、場所ひとつで気分も違ってくるんじゃないかな」



そう言って、鶴姫ちゃんを連れてきたのは、大阪湾が一望に見渡せられる場所。
着いた頃には夕暮れ近く、海が紅く染まっていた。



「まあ、綺麗…」

「やっぱり私たちは海が好きなんじゃないかな。生まれも育ちも海に囲まれてたからね、ずっと」


「そうですね。私も…海が好きです。
 千祥さんはお家を守るためにここまで来たんですよね」

「まあ、言ってみればそうだね」


四国の敵を討つために。

ここに残っているのはいくつかの理由。
鶴姫ちゃんと共に戦う準備をするため。
西軍を見極めるため。


そうして、私はここにいる。



「私の力で大切な方を最後まで守りきります。
 だから、千祥さん。お願いですから無理だけはしないでくださいね」


やっぱりこの前鶴姫ちゃんが見た未来は私の最期なのだろうか。
だけど、この子の前で不安がるなんてことはしたくなかった。


「大丈夫。私は生きるよ」


大丈夫…こんなに意味が込められない言葉となるなんてことは初めてだった。

生き残りたい。
ただお家と自分の命ならば、きっと前者を選んでも後悔が無いに決まってるのだった。





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刑部は親ばかにはならないと思います!
だけど、無自覚に甘くなったりしてたら私が萌えます!!私得です!!
それにしても、私がお団子好きすぎて…笑




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