6.わたし

「私でもまだ混乱しているままなんで、信じられないかもしれないんですが。
 迷子になったって言ってたんですが、本当は場所はわかってるんです」
「遠いのか?」
「ここからずっと遠く…私、この時代の人間ではないんです」
「………」


やっぱりいきなり言っても首を傾げられてしまった。
そりゃそうだ。私だって普段生活してていきなり『俺未来人なんだぜ!』とか言われてもその人の頭を心配するか、通報するかだろう。


「はは…やっぱ、意味わかんないですよね」
「…最初はよ、今の乱世のことわかってなかったから記憶がねえだけだと思ってた。けどよ、アンタの手。見てみ、すんげえ綺麗なんだよ」


元親さんは私の手を取って、自分の手と重ねる。
大きくてゴツゴツして硬い手。それに対して私は小さいし、多少肌が荒れたとしてもここでずっと働いている女中さんの何倍も綺麗な肌をしているだろう。


「俺の手、何人の命を奪ったのかもうわかりゃしねえ。その手をアンタどう思う?」


この元親さんの手。


「私のいたところじゃ考えられないことです。でも…この手でみんな守って、だからこそここの人たちは優しくて、あったかくて。
 誰がなんと言おうと私はこの手を好きです」
「…そうか」


元親さんは自分の手を見て、何か思うことがあったのか。ふっと笑うと、その手で私の頭を豪快に撫でる。


「ちょっ、元親さん?!」
「確かにアンタこの時代の人間とは考えがばっちしずれるし、手が綺麗だし。…わかった、名前の話全部信じてやる。全部言ってみ?」


撫でた手を止めると、私の方をじっと見る。
促された空気になって、頭で話す内容を整理しながら元親さんの方を向く。


「私たぶん元親さんがいるこの時代の400年後ぐらいの世界からきました。もう日本はひとつの国になって、刀とか銃とか…そんなものを持つと大抵の人は捕まってしまうような時代です。 
 国も豊かで、私の手が綺麗なのも家事をするのが楽になる道具が発明されたり、日頃からスキンケア―、じゃなくてお手入れするための薬とかが気軽にあるからなんです」
「まあ、全部納得できる話だな」
「その時代で信親に会ったんです」
「アンタの息子か…」


『母上!!』


そう呼んだ信親の声は今となっては懐かしい。
とは言っても、まだ正当法で会ってないということはもう一度会えるはずだから未来の話になるんだろうけど。



「はい。息子が私に会いに来て、その息子は1週間で私の年齢を越して亡くなる歳になる日に消えていきました。
 消えていく体を抱きしめていた私は海にいたのに…気付いたらここにいて。元親さんに運ばれていました」
「…言ってはいなかったが、海辺で倒れてた。なんとも、不思議な話なこった」


私にとっても不思議でしかない。まず自分の息子が過去の時代から私に会いに来て。もうその時点で頭がこんがらがった。だというのに、更には元親さんとの出会い。夢を見ていると言われても納得できる話だ。
それを聞いている側が不思議に感じないというのは無理な話だろう。


「でも信じるって決めたからには信じる。だからそんな不安そうな顔すんな」
「元親さん…」
「ここで雇ってる間は俺が責任持って守ってやる。どうせ、いつ帰れんのかもわかんねんだろ?」
「ごもっともな話です、改めましていつまでになるかわかりませんがお世話になります」


世話してやる、そうまた豪快に笑うと同時に豪快に私の頭をまた撫でだす。
なんかそれがまた気持ちいいけども思いっきり子供扱いにしか思えなくて。



「…ちなみに私二十ですからね?」
「ああ、そうか。でも見えねえからよ。だいたいこんな夜中に情事以外で呼びつけてんだから変な目で見ねえっつうこった。逆に安心してくれても構わねえぜ?」



それは女として見れないほどに私が子供っぽいということなんだろうか。確かに色気はない。この二十年間生きてきて浮いた話なんぞなかった。
納得はいく話だけれど、この話ばかりは頷けずに最終的に元親さんの真正面で拗ねることとなった。



  


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