3.迷子の遺伝

目を覚ますと私の目の前で消えていったはずの信親の姿。
眠い目を擦りながら見てみると、どうやら私は信親にどこかへ運ばれて行っているようだった。


「…信親?」
「今はまだ寝とけ」


だけど、いつもと違う言葉遣い。

どこか不思議に感じながら、暗い道を抱きかかえられながら進んでいく。
もしかして信親じゃない?
意識があったときの感触を思い出す。確かに信親と体格とか顔とかそっくりだけど、どこか違うというか。
それでも突如襲ってきた睡魔に打ち勝つことができず、またもや私は意識を手放した。



**********



いつの間にか明るい。
やっぱり人間というのは眠気には勝てないものなのか、仕方ないなと苦笑しながら自分がいる場所を見渡してみると見知らぬ場所。
一気に笑いも引いた。
そして、とどめの横にいる男性。


「あれ、起きたか…」


男性…とはいっても、髪の毛の色素は薄く、瞳の色も灰色、整った顔。まさに信親だった。
だけど少し違うのが、左目に眼帯をしてるというのと言葉遣いとかからくる雰囲気。
じっと見つめてみれば確かに信親そっくりだけどどこか違うということがわかる。


「あの…つかぬ事をお聞きしますが信親じゃないですよね?」
「ああ、俺は元親だ。長曾我部元親。
西海の鬼た、俺のことよ」


うん、やっぱり信親じゃないわ。
名前も確かに違うけれど信親こんなかたはら痛きことを言うような子じゃなかった。別の意味でほっとする。
でも、元親と名乗る姓が長曾我部。長曾我部なんてなかなかいるような姓じゃないし、信親と何かしら繋がりがあるんじゃないだろうか。


「私名字名前といいます。
あの、長曾我部さん!長曾我部信親をご存知ないですか?」
「長曾我部、信親…この長曾我部姓と親の字、この二つが揃ってんなら家のもんだとしか考えらんねえがいねえな」
「そんな…」


あの時信親は光に包まれて消えていった。やっぱりあれは現実だったんだ。もう、会えないかもしれない。
そう実感すると悲しみと後悔の念が私の中で入り混じる。


「俺でよかったら探すの手伝ってやるから。そんで、その信親とはどんな奴だい?」
「ありがとうございます。
信親は歳はたぶん22で、容姿はあなたにそっくりで、とってもいい子で…自慢の息子です」


自慢の息子です、そういい終わった後にやってしまったと気付く。
私の歳は20。信親の歳は22。息子だと言ってるのにおかしな話じゃないか。


「………え、アンタいくつだ?」


案の定疑問に思われたみたいで。
やっちゃった。私完全に危ない子か、怪しい子じゃないの。


「私自体は20です、でもいろんな事情があって未来の戦で命を散らしてしまう息子が私の元にきてくれたんです」
「話は気になるが。…戦か。それで、アンタはどうしたいんだ?
 探すのを手伝うとは言ったが、アンタの話が真だと仮定しても未来の息子じゃ会えないだろう」
「でもここにいる可能性が」



私が生まれたのは戦もない平和な世。
そんな中でもう信親は消えてしまったのだから会えるわけがないじゃない。
会えるとしたら、せめてその信親がいた時代。



『某長曾我部信親…此度戸次川の戦にて某の命は散りました』



戸次川の戦い、無意識に調べてしまったそれは秀吉の九州征伐。



「すいません、息子は戦のある時代に生きていたんです。…こんなに平和な世の中で会えるわけないですよね」
「いや、俺が言いたいのは会える可能性が低いとかでもあるんだが…その信親っていう息子とやらがアンタ含めた大勢の人間のために命懸けて出陣したんだ。
 母親だからといって息子を求めて無我夢中になったりするのは体がよくねえだろ」
「でも…」
「まあ他の奴には言わねえほうがいいぜ?
 代わりといっちゃなんだが何かの縁だ。俺が聞いてやるから。」


にこりともしないまま、そう長曾我部さんは淡々と話すけれどどこかあたたかかった。



「ありがとうございます」
「長曾我部のことだから気になるしな。
 それでひとつ気になったんだが。平和な世ってどういうこった、今はまだまだこの日ノ本じゃ戦ばっかであふれてる。アンタはどこの話のことを言ってる?」


ふと投げかけられたそんな疑問。
私が言っていた平和な世っていうのは勿論場所で言えば日本、ということでいいんだろう。そして長曾我部さんが言っているのも日ノ本、という呼び方は違うけれど同じ場所を指しているということでいいだろう。
現に日本語が通じているからそれは大丈夫だと思う。
だけど『戦ばっか』。この言葉。



「ここ日本ですよね?」
「ああ」
「戦ばっかってどういう意味ですか?」
「どういうって…そのままじゃねえか」
「日本の中で」
「各地でな」


あれ。
もしかして私が寝ている間に日本何かあったのか…あったとしても戦なんて起こらないと思う、しかも各地で。


「日本統一されてるのにですか?」
「は?されてねえよ」
「そうですよね、やっぱりおかしいと………はい?されてない?」
「だから戦が起こんだ」


されてるけれど、そんな言葉が欲しかった。
だけど返ってきたのは全く逆の言葉。思わず聞き返したけれど長曾我部さんの中では完全に私がおかしいと思ってるんだろう、そんな目をしている。



「私が寝てる間にやっぱり何かあったんですか?
 日本統一されたのに…戦国乱世みたいになるなんて」
「…アンタ、さっきから何言ってる。
 今まさに乱世だし、天下統一目指して各国で何千、何万の人間が戦ってる」
「…………ちなみに、織田信長とか豊臣秀吉とか徳川家康とかいたりします?」
「信長はついこの間本能寺でやられた」
「この間?」
「ああ」






私一体どうしちゃったんだろう。
というか何があったんだろう。
信親があったかくて。気持ちよくて。


「ちなみにここどこです?」
「南国土佐」


しかも、土佐って言ってるってことは高知。
私が元いたところから結構離れている地だ。しかも、時代までもが違う。


「うわあ、完全に迷子」


きっと信親私に似てるところがあったんだね。あ、でも結局迷子じゃなかったんだっけ信親は。
それは置いておいてついこの間信親が置かれた状況と似過ぎている。
だけど違うのは私には知り合いが全くいないということ。



「…すいません、長曾我部さん。ここらへんに住み込みの仕事とかってないですかね?」



信親に会うまで、要するに信親を産むまで。
また会うには私は生きなきゃならない。いつ帰れるのか、はたまた帰ることができるのかもわからないこの戦国乱世で。
今は唯一私の話をした長曾我部さんにすがるしかなかった。




  


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