2.未来で待ってる

私の息子だと名乗った千雄丸くん。
次の日起きたら5歳ぐらいだったのに、成長していた。一晩で既に見た目は小学生高学年ぐらいになっている。


「かぐや姫?」
「男です!」


そんな瞬間的なツッコミができるほど。

私の息子が今ここにいる時点で気にしたら負けかと思っていたけれど…正直気になる。確かにね、昨日千雄丸くんは自分が死んだ身とは言ってたよ。だけど、このかぐや姫みたいな展開。驚かないわけがない。


しかし、そんな彼の成長は止まることはなかった。


次の日の水曜日にはもう中学生とか、そのぐらいの年齢。

その次の日の木曜日には成人しているよう。
それはもう素晴らしいほどにいい男に育っている。

彼曰く日に5歳歳をとっているらしい。
確かにもう私とも年齢が近いと思うことができる。
高校を出てから3年。すぐに社会に出て、それから今まで男気がなかった私の人生にとうとういい男が現れてしまった。確かに好きだと思う感情はあった。
だけど、男として…ではなく息子として。


金曜日になればもう私の年齢を越えているように思われた。
だけど22歳で命散らした千雄丸くんは25歳にはなれないらしい。


「今夜が最期かと…」
「千雄丸くん、ごめんね…せっかく会いに来てくれたのに何もできなくて」
「いえ、しかしお願いがあります」







最期だから、そう言い、真剣な瞳でお願いをした千雄丸くん。

お願いというのは海に連れて行って欲しいというものだった。
生まれ育った国が海に面していたらしい。しかも、父親…私の夫となる人が海が大好きらしい。


「母上、某を信親と読んでくださいませぬか」
「うん…信親」
「ありがとうございます。
 この数日間、限られた時間ではございましたが母上と共に同じ時間を過ごすことができて大変嬉しゅうございました」
「こんな私だったのに?」


この五日間、月から金は勿論平日で私は常に働き詰め。そのせいで信親と過ごす時間はほとんどが朝と夜。
強く願った私という存在が情けない話。

そう不安が残る中信親を見れば、ふっと笑って私を抱きしめた。


「母上の手、声、ぬくもり…全てが母上でした。
 とても暖かくて、某を信じてくれて、優しくて。そんな母上が大好きです」


ぎゅっと力の込められた信親の腕が一瞬透けたように見えた。
しかし、信親の泣きそうな顔を見ればそれはどうやら本当のことらしい。


「また会えるよね?」
「…まったく、父上が母上を好きになった理由がよくわかりました。某が生まれるまで父上をよろしくお願いします」
「でも会ったことない―」
「大丈夫。でも最期の最期にひとつ…父上は己の過去を悔やみ、時折孤独になるといいました。
 母上の愛で父上を包んであげてください」



信親の言っていることは本当はよくわからない。

だけど、愛した人なら。
こんなに愛しく思う息子を私に授けてくれる人なら。

頷かずにはいられなかった。
信親の頭を撫でれば、ぽろりと涙が互いにこぼれた。


「何でだろう、信親の存在も実感あんまないのに…」
「母上がそれほど優しいのです。それにしても某男なのにないてしまいました、父上にはご内密に」
「わかった、秘密にしとくね」






信親の体が消えていく瞬間。
思わずに信親の体を抱きしめた私は彼のぬくもりの中で意識が薄れていくのを感じた。





  


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