20.柘榴

「母上!!」


私たちが想いを交わして数年後、元親さんの予想は的中した。


「もう千雄丸、木刀を振り回しながら走らないの」
「はい、母上!!」
「まあまあ、元気があっていいじゃねえの」


まるで、私がいた時代で出会った信親のよう。いや、本当に信親か。
私に会いに来た信親のように、撫でる手や時折作る私の手料理も覚えてくれたらいいなと、ついつい願ってしまう。


「元親さん…千雄丸に会わせてくださって本当にありがとうございます」
「んなもん、名前が俺を惚れさせたからだろうが。礼言うなって。
 それに、俺だって会いたかったんだからよ」


頭を撫でられるのも慣れたもので、心地よい。

ずっとこの時代で生きていく、それを元親さんの隣で決めた時泣きそうにならなかったと言えば嘘になる。
だけど、今、ここに至るまで。
元親さんの婚期が過ぎそうだからと私を認めてくれたこの地の多くの人に、ずっと会いたかった信親。

それに、私の隣に座る旦那さん。


周りに支えられてきて、私は今笑えることができたんだろう。


「元親さんの手を取って正解でした」


頭を撫でていた手をぎゅっと握ると、元親さんは満足そうに笑う。


「ははっ、そりゃありがたき幸せってもんよ。
 こうやって手を伸ばせば名前がいて、千雄丸がいて…ありがとな」
「もう…」


時々元親さんの口から出るくすぐったいような、恥ずかしいような言葉にはまだ慣れない。


「千雄丸が大きくなるのも楽しみだな」
「それまでちゃんと生き残ってくださいよ?」
「何だその言い方」
「もう時効だと思って言っちゃいますが、元親さんが四国征伐が終わっていなくなった後敵の連合軍の方にたとえ元親さんが生き返っても倒すとか。そんなこと言われたんです。
 倒されないでくださいよ?」
「当たり前だっての、俺が先に逝っちまったら泣くんだろ?」


『敵わない』


言葉を発したのは同時だった。


「どこがだよ?」
「元親さんこそ!」


笑い出したのも同時。


これからも、こうやって。霞がかかって先が見えない世界で。
元親さんの隣で笑って生きていく。千雄丸の成長を眺めて生きていく。


敵わない。

それは本当に私の台詞だ。





(終)



    


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