19.あまくてたまらない

大人しく布団を頭まで被って、何も考えないとぎゅっと目を瞑ったわけだけど…。


元親さんがいるのに、どうして意識しないことがあろうか。いや、意識する。
思わず自分の中でも反語の文ができてしまうほどに、元親さんがすぐ近くにいるということ、更には布団によって元親さんの匂いに包まれているこの状況で混乱状態だ。

ちらりと布団をめくって見てみれば、気付いたのか元親さんが振り返る。
急いでまた頭から布団を被るものの、元親さんの苦笑と同時に足音が聴こえる。


「はー、俺じゃ安心できねえってか?」
「いえ、とっても安心です」
「そこまではっきり言っちまうかよ」


元親さんのことを信じていないわけがなくて。逆にそれはそれで悲しいけど。


「だって夜中に呼びつけて何もしないのはそういう目で見てないからだってご自分で言ってたじゃないですか」
「…今は理由が違うっての」


私は更に元親さんの異性の基準から遠のいていってしまったんだろうか。
無意識の内に布団から頭を出せば、布団ごと元親さんにぎゅっと抱かれた。


「絶対変な下心もわかないって思ってたのによ、今じゃ惚れた弱みで手なんか出せねえってか」


元親さんの唇がおでこに、瞼に、頬に、耳に下りてくるとそこが熱くなる。


「名前が好きだ」
「元親、さ」


名前を呼んだ瞬間に唇が重なった。すると、私を迎えにきてくれた時のキスも夢じゃなかったのだと改めて思い知らされる。


「本当に、私を…」
「おう。こんなこと冗談でいうわけねえだろ?
 今日帰るとき本気で団子買ってきた野郎を疑ってくれんなよ」
「え、買って帰ったんですか?」
「まあ生憎買えと言った奴はこの城飛び出して、渡せじまいだったけどな」
「う…意地悪です」


いつもの調子で話できてると思ったのも束の間。元親さんとばっちり目が合えば、また胸の鼓動が早くなる。


「好きになっちゃいけないと、思ってたのに」
「何でそう素直にならねえかな」
「…元親さん、私も元親さんのこと好きです」
「はは、なら良し」


元親さんが布団を剥がすと、今度は私単体で抱きしめた。


「これで俺の戦はやっと終わった」
「戦?」
「豊臣との戦に出る前に言ってたろ、腹括るって。それ、名前のことだったんだよ。
 …そん時は悔しかったけどな」
「何がですか?」
「先に好きになっちまったことだ。…小娘拾って面倒見て、変な目で見ねえとかいった俺がまんまと惚れちまって。 
 立つ瀬がないことこの上ないっての」


私は何もしてない、むしろ元親さんの方が素敵だし、いろんなことを私のためにしてくれて。その言い方はずるかった。


「しかも、らしくもなくなかなか手出しできなかった」


親指で唇をなぞられてから、ついばむような口づけが何度も降りる。
元親さんの腕の中で、蕩けてしまった私の思考ではもう口を開ければそれこそ甘い台詞しか出ない気がした。とてもずるいなんて言えなかった。


「なあ、俺…信親に会いてえんだ」
「え?」
「ああ。俺自身でもこんなにも一人の女を想ってることに驚いてる。
 思ったんだよ…名前が俺と同じ気持ちなら、信親は俺たちの子じゃねえかって」
「自惚れてもいいんですか?」
「自惚れろよ。答えは?」



『母上!!』



もう一度信親の声が聴けるなら。それも、元親さんの隣で聴けるなら。


「…私でよければお願いします」


それ以外の言葉を紡ぐことはできなかった。やっと素直になれた。
まるで、誘導尋問。だけど、私にとってはそれはとても甘く愛しいものだった。




  


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