17.幻を欲す

今まで本当にありがとうございました


本当はちゃんと言いたかった。
だけど、私の動揺の酷さと顔を合わせられないのとで紙に記した。

元親さんがいつその紙を見つけてくれるかわからない。



「飛び出したものの…ははっ、海しかないや」


きっと私はこの海から元親さんに運ばれたんだろう。
自然とそう思えてしまうほどに、あの日信親と別れた景色にそっくりだった。


このままいたら元親さんたちの船が見えるかな。


「こんな真っ暗なのに無理に決まってるじゃん」


自問自答する度に、笑いが込み上げてくる。


私は何を考えていたんだろう。
どこにでもいるような人間で、信親と出会って、別れて、知らぬ間にこの時代に来て、元親さんに出会って。

また、さよならなんだ。



真っ暗。

何も感じなければ、楽なのかな。
だけど、きっと何も感じられなかったらこの時代で、一喜一憂したりすることはできなかったんだ。



冷たい海風を肌に感じるたびに、元親さんに会いたい思いがこみ上げる。

会いたい。
だけど、早く忘れて欲しい。忘れたい。


矛盾した思いが均等に心の中で入り混じってるのかと思った。
…違う。

会いたい。会いたい思いの方がずっとずっと大きい。



「元親さん」


答えてくれる人はいない。わかってたのに。


「名前」


そこには、会いたかった人。
幻覚…?いや、違う。


さっきまでの会えないという覚悟なんて、既にもう崩れそう。
それ以前に今既に会ってしまってる。


急いで我にかえって、元親さんから顔を背けようとしたのにすぐ腕を捕まえられて引き寄せられて。
気付いた時には目の前に元親さんの顔。一瞬で唇を奪われた。

一瞬で奪われたのに、そのキスはすぐには終わらずに、頭の中で混乱するばかりだった。


「………帰るぞ」


まるで、さっきのことがなかったというように。それほどまでに、元親さんの態度は淡々としていた。
その場に立ち止まり、抵抗するものの最終的には俵のように抱え込まれる始末。どうにも対抗することはできなかった。


その後、城に戻ると侍女頭が私に急いで持ち場に付きなさいと怒る。
既に大広間の方から喧騒が聴こえ、相乗効果で急がなければならないと焦る気持ちが私の中で起こった。



「名前、ひと段落したら俺の部屋に来い」
「で、でも」
「わかったな?」
「…はい」


元親さんの方はというとやっぱり勝手に出て行ったこと怒ってるんだろう。
いつも通りに接してもらってるとわかってるものの、後ろめたい。

自室へ戻る元親さんの後ろ姿から申し訳なさがこみ上げる。


戦から戻って、私のこと探してくれた。
嬉しいけど、今の私じゃ嬉しさだけじゃ終わらない。


今すぐにでも謝りたいのに、襷をかける運命となる私にはしばらくは無理な話だった。





  


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