16.覆られた未来
なんとか大急ぎで大広間での宴の準備を終わらせた。
多少この敗北した状況ではお酒が足りないけれど、きっと元親さんが持って帰ってくる。何故か皆そう信じてる。
もう敗北なんて関係ない。
生きて帰ってくれただけですごく嬉しい。
あとは帰りを待つだけ…。
それまでは片付けでも、そう思い侍女頭と親貞さんが話し込んでいた隣を通り過ぎようとした時だった。
「あらまあ、ではこちらはまた長曾我部に」
「ああ。四国征伐も九州征伐、結局は豊臣が落ちれば何もかも元通りだ」
”九州征伐”…?
『某長曾我部信親…此度戸次川の戦にて某の命は散りました』
あの信親が死んでしまった九州征伐、戸次川の戦。
「あ、あのっ、戸次川の戦が終わったのですか」
「え、ああ…先日とは言っても随分と前だがな。兄貴がどこぞにいる間に豊臣秀吉は九州征伐を行って、次は小田原に進んだらしい。だが、奥州の伊達政宗という男が豊臣秀吉を討ったという。
全て元通りだ、勿論この四国の地もな」
「そう、なんですか…ありがとうございます」
親貞さんの言葉は最後までは耳に入らなかった。
終わった…?
戸次川が終わった…?
私はまだ信親に会っていない。
なのに。
なのに…。
私がここにいる意味って何なの?
元親さんが私の話信じて、ここに置いてくれて。
いられない。
私は、元親さんに合わせる顔がないんだ。
『おかえりなさい』
そう言いたかったけど。
『ありがとうございました』
そう言いたかったけど。
ああ、さよならだ。
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