14.複雑合戦

『おかえりなさい』


そんな言葉を元親さんに言いたいと日々頭の中で何度も何度もイメージトレーニングを重ねるものの、今日も言えなかった。
一体どこにいるんだろうか。
元親さんだけじゃない。元親さんと共に戦った軍の人たちも行方がわからないと言うのだ。

その間にも豊臣は兵を進めているという。日本を治めるのも時間の問題だとか。


「名前、今日でもう全て引き上がる。だから最後まで毛利や豊臣の人間に顔合わすんじゃないよ」


あの夜に、見知らぬ男の人に会ったことは誰にもバレてはいない。そして、今日ここまであの人以外には顔を合わすこともなかった。少しドキドキしながら話を聞いていたわけだけど。


「今日までで済むんですか?元親さんまだ帰ってきていないのに…」
「この際どうとでもするんだろう。まあどうするかはわからないが、あの方はあの歳で子供もいらっしゃらないからねえ。帰ってきたらすぐ婚姻でも結ばされるだろう」
「えっ…あ、そ、そうですね。もしもの時大変ですもんね」


今胸が痛んだようなこの感じ。
元親さんのこと、好きなのかもしれない。だけど、好きになってはいけない。
そんなことわかってる。
さっきのはちょっと寂しくなっただけ。それだけ。


「名前?」
「え、あ、はい、じゃあ今日まで顔見られないように頑張ります!失礼します!」


元親さんの結婚のことなんて私の考えることじゃない。だって、まず私は信親という名の息子がいるわけだし。また会うっていう約束を叶えたいと思っているわけだし。
私には関係のないこと。
居候として、侍女として…祝う立場に立ってるんだもの。

不毛な恋だな、なんて笑える日だってすぐにくるだろう。
考えなければいい、そう思ってただ只管に毛利や豊臣方の人に出会わないように注意を払いながら働いた。



いざ、お帰りになられる時に隠れながら見送れば城の中に平和が戻ったような気がした。
いつも通りの雰囲気に。いつも通りの仕事。

だけど、そこに元親さんをはじめとしたたくさんの人たちがいない。
今回の講和で毛利に付いていった人が多いという。長曾我部の兵器を毛利のいる安芸でつくるとかどうとか。



『たとえ生き返ってこようとも我が討つ』


そう私に言い残した人の正体はわからなかった。
だけど、その人も心のどこかでは元親さんを待ってたりはしないのだろうか。

だけど…


その時を待って、元親さんが帰ったとき。
どうするんだろうか。
本当に元親さんを倒しちゃうんだろうか。


その時、私はどうしてる?何を思う?


考えれば考えるほどに、自分の思いに気付き始める。
気付きたくない、そう思って考えるのをやめることを試みるものの今更瞼の裏に浮かんだ元親さんは消えない。


元親さんが帰ってくる頃合に間に合えば構わないよね。



  


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