12.信じてるから
『毛利が来たぞ!』
四国征伐が終わって、講和会議というものだろうか。
毛利家の当主、毛利元就が直々に来ているらしい。豊臣と戦っていたのに、そう思ってたけどどうやら今回、毛利も豊臣に手を貸していたらしい。
私だって知ってる毛利元就。それに、豊臣秀吉。
それはもう、元親さんが不利だったのは仕方ないだろう。負けてしまったことも。
だけど、どうしても元親さんが帰ってこない事実を認めたくない。
いや、生きてる…生きているはずだ。元親さんは絶対帰ってくるって、団子持って帰ってくるって、そう言っていた。
「名前、お前は今日は下がりなさい」
「え?」
「もしものことがあった時、元親様がお前だけは毛利やら豊臣やら関わらせるなと言っていたんだよ」
「そ、それは私が役に立たないからですか…」
「馬鹿だねえ、日頃ちゃんとやってる子に役立たずなんていう訳ないだろう?
元親様なりの優しさだよ」
侍女頭に言われて目眩がしそうになる。
元親さん。
帰ってくるって約束したくせに。
もしものことって何。
そんな優しさなんていらない。
少しでも元親さんの役に立ちたいのに…。
「それでも私は…」
「大丈夫、元親様はちゃんと帰ってくるから。
元親様の優しさって言ったけど本当はあの方が格好つけたいだけさ。帰ってくるまで心配はかけたくないんだろう」
「そうですか…」
だから格好つけるべき相手が違うというのに。
結局侍女頭の言うとおりにして、一人部屋に戻ろうとした。
だけど、その前に見えた元親さんの部屋。勝手に入っていいわけがないとわかっているけれど、ふらりと体が入ってしまった。
『ああ、俺は元親だ。長曾我部元親。
西海の鬼た、俺のことよ』
『名前の話全部信じてやる。全部言ってみ?』
『でも信じるって決めたからには信じる。だからそんな不安そうな顔すんな』
『ここで雇ってる間は俺が責任持って守ってやる』
『ちゃんと団子持って帰ってくるから』
ここで元親さんとたくさんの言葉を交わした。
ここで元親さんに荏胡麻の油を手に塗られた。
ここで元親さんに荏胡麻の油を手に塗った。
ここで元親さんに抱きしめられた。
ここで…
「約束したんだ」
大丈夫。帰ってくる。
元親さんは絶対に帰ってくる。
元親さんが帰ってこないわけがない。
だから、ちゃんと私信じてるから。
こんだけ格好つけられて、私がくよくよしてたら立つ瀬がない。
「こうしちゃいられないや」
襖を勢いよく開けて、いつも通りにたすきを巻いた。
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