10.いつも通りの関係

「ええ、豊臣さんが来ちゃうんですか!?」


織田信長が本能寺の変で討たれてから、その後豊臣秀吉が天下を取るのはとても有名な話。
私が来てしまったここも例外ではない。というのも過去があっての有名な話だからないはずがなかった。
すると天下を統べろうと四国にも手をかけるらしく、元親さんも体制を整えているらしい。



「そうだ。っつーわけで、こうやっていろいろ教えてやれるのも戦が終わるまでは難しいってこった」
「そうですか…」


いつものように夜元親さんのもとで、今のこととか長曾我部のこととか教えてもらっているわけだけど。戦の直前となってきたら焦っている様子が私にも感じられる。
そして結果のことを考えると私にも複雑な思いが出てくる。

私はここの時代のことをよく知っているわけでもない。だから勿論豊臣秀吉の四国征伐のこともよくは知らない。
だけど、『豊臣秀吉が天下を取った』。この事実。それだけは知っている。そして、その結果があるとすれば四国も例外でなく、豊臣秀吉が統べることになるのだろう。
元親さんがどうなるのかも、四国がどうなるのかもよくはわからないけれどもしものことを考えては、一人落ち込みそうになる。


「おいおい、俺が負けると思ってんのかよ」
「…だって、豊臣秀吉ですよ?ここの時代よく知らない私だって知ってるぐらい未来では有名な人なんです。
 きっと強いんですよ。元親さんのこと話では強いと聞いてるし、ちゃんと無事に帰ってきてますけど今回ばっかりは心配です」
「へえ…まあ百姓上がりで有名になったってことは俺だって認める。だが俺だってあんたの知ってる通り強いんだ。
 心配すんな、今回だって無事に帰ってくる」


元親さんのこと信じてる。
元親さんがいなくなることなんて考えられない。

だけど、どうしても今回のことを考えると胸が苦しくなってしまう。


「絶対、絶対帰ってきてくださいね」
「ああ。約束する」


確証なんてないのに、元親さんが笑うと不思議と大丈夫だと思えてきた。
さっきまでの胸苦しさも、すっと引いていくよう。


「元親さんのご武運をお祈りして待ってますから」
「そりゃ、ありがてえこった。名前が待っててくれんなら早く帰ってこねえとな」
「もう、軽いことじゃないんですからからかわないでください!」
「からかってなんかねえよ」


そうは言うものの私の頭を撫でる手は違うと物語っている気しかしない。
この前抱きしめられてあの時はすごくドキドキしてたのに、あの時のことが嘘みたい。むしろ私の夢だったんじゃないかって思うほどに今の元親さんは余裕たっぷりのご様子。
本当、適わない。



「俺も腹括って帰る」
「帰ってくるのに腹を括るんですか?行くんじゃなくて?」
「男にはよ、また別の戦があるってもんよ」
「よくはわからないけど大変ですね。頑張ってください」


よく考えたら元親さんは何かと戦ってばかりだ。
海へ出ればどこかの海賊と戦ったり、毛利と戦ったり。陸にいても男の人特有の戦があるみたいだし。


「私には祈ることしかできないですが」
「ははっ、あんたの祈りがありゃ百人力だっての」
「本当にそうだったらいくらでも祈りますよ」
「…名前だろ、たぶらかすのは」


いつの間にか拗ねているのか、元親さんがむくれてる…気がする。
こちらはこれでもさっきまで心配でいっぱいいっぱいだったというのに。


「あの、元親さん私何か悪いこと言っちゃいましたか?
 もし気に障ったのならごめんなさい」
「いや、俺の方こそ馬鹿みてえに拗ねちまったな。悪い。
 …そうだ、詫びと言っちゃなんだが帰ってくるときに名前の好きなもん土産に持って帰ってくる。何がいい?」


すっかり元の様子に戻ったので安心はするけれど、今度はまた違う理由で困ってしまう。
好きなもの、そう言われてすぐに考えつくはずがない。不自由あって暮らしているわけでもないのに。それに、私が思っているものがあったとしてもここにあるのかさえも怪しいし。
きっとケーキとか言えば舌足らずな口調でケーキって何だとか言うんだろう。逆に聞いてみたい気もするけど。



「私は、元親さんが無事に帰ってきてくれるのが何よりのお土産なので。お願いですから無事に帰ってきてください」
「…ったく、もう。格好ひとつもつけらんねえな」
「別にいつも格好いいんですからつけなくてもいいと思いますけど?
 その前につけるところ、私の前よりすべきところありますよね。あと今みたいにこうやって教えてもらえることだって十分有難いことなのでこれ以上望むものはないです」
「わかった。じゃあ何か少しでもいい、欲しいと思ったもんねえのか?
 それなりに年頃の女だ。何かしらあんだろ」


諦めてくれたと思ったのに。
逆にハードル高くなってる気がする。それに、お年頃とか言ってこれで何も出せなかったらアウトみたいな雰囲気。


「じゃあこの前食べたお団子をお願いします」
「…っふ、ははっ、年頃って言ってやったのに食いもんか」
「美味しいんですからいいじゃないですか!」
「はいはい、わかったわかった。ちゃんと団子持って帰ってくるから」
「…ご武運を」


元親さんが戦に出たときにまた同じ言葉を言うんだろうけど、言わずにはいられなかった。
ここで引き止められたらいいのに、なんて。思っても仕方ないというのに。





  


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