偶然は転がりまくっていました

【元親妹】

「兄貴っ…あなたという人は、そんな不純な理由で私を人に合わそうとしているのですか!?」
「不純ってなあ…」

四国を治める西海の鬼神こと長曾我部元親。
私の兄。

そんな兄貴が久々に城に戻ってきたと思えば、私の見合いだと言って人を連れてきたのだという。
確かに私の年齢的にもいい頃合なのかもしれない。
長曾我部のためにもなるのかもしれない。


「でも…でも…兄貴と離れるなんて絶対に嫌!」
「っ、しょう…で、でもな、いつかはお前さんも嫁がなきゃなんねえ。
 だからそれだったら俺が安心して預けられるところがいいんだよ」
「やだ、やだっ、私は兄貴と祝言を上げるの!」
「俺に嫁ぐって本気で言ってんのか?」
「兄貴に嫁ぐっ!私が兄貴の子を産むもんっ!」
「っ!?」


兄貴の目の前で叫ぶようにそう叫んでみれば、兄貴の顔は一気に赤くなった。
そして、タンマだと手を前に出した。
そして、数分後。
元の状態に戻った兄貴は、こほんと咳払いをすると私の頭を撫でた。


「ああ、俺の嫁にこ―…ち、ちがっ。
 いいか、しょう。俺とは祝言は上げれねえし、俺の子も孕めねえんだ…だから、どうしても他の野郎のところに行かなきゃなんねえ」

ここまで結構本気なのに受け入れてもらえないということは既に話は終わりだと示している。
兄貴の目が本気なのもその理由の一つ。
だったら、私にとってもこの話は終わり。

「祝言、孕むなど破廉恥な!
 女子を相手に何をおっしゃいますか…………兄貴なんか大嫌いっ」
「え、ちょっ、しょうっ!」
「ふんだっ、絶対会わないんだからっ!!」


負け犬みたいな台詞を残し、城を飛び出して行くところは結局海。
昔からいつだって感情をここに吐き出してきた。

「嫁げば、ここから離れないといけない…絶対に嫌だ」

嫁げばこの地、この海、生まれ育た城、仲良くしてくれたみんな…そして、兄貴を捨てて行かなければならない。
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。
泣きたくもなる、そりゃあ。
でもここで泣いたら認めることになる。
だから、泣かない。
そう決めたのに、決めたのに…なあ。
涙がボロボロと勝手に落ちてくる。


「昔はこんなに泣くなんてなかったのに、そろそろ女子になってきちゃったか」

座り込んで、そう呟いた時だった。

「Hey, What's up?」
「へ、へ、南蛮語?」

後ろを振り返ってみると、日ノ本にいるような顔をした殿方。
でも南蛮語を喋っていたきがするんだけど…。
生憎私には喋れない。
どうしようと考えながら会釈すれば、その方は私の隣に座り込んだ。

「あ、えっと、あの…」
「大丈夫だ、南蛮語ばっか喋ってるって訳じゃねえ」
「あ、そうですか」

今の顔では顔向けできないと、急いで涙を拭おうとするが、その手は止められた。
そして、涙が流れたままの顔で顎を取られて顔を上に向けさせられる。

「あの」
「無理すんな、どうしても泣き止みてえなら俺が拭ってやる。
 …そうじゃねえなら俺が胸貸してやる」

頬を撫でなれ、胸板に私の顔を押し当てる。
そうすればまた流れ出す、私の涙。

「っく、うええ、うわあああ、私、この地を離れたくないっ、兄貴と離れたくないっ」
「よしよし」
「ひっく、ごめんなさい、私…私」
「いいんだ、何かの縁だ。
 泣き止むまで付き合ってやる」


頭を撫でる手が暖かくて、私を受け止めてくれるその人の心がとても暖かくて。
ああ、知らない人なのに。
私は今この人にこんなにも心を許している。


「ありがとうございます」
「…やっぱ笑ったほうがcute、可愛いぜ」
「っ、お世辞も上手なものですのね…改めましてありがとうございました。
 このお礼は―」
「気にするな…まあ縁でまた会えたらお礼をもらうとするぜ、じゃあな」


立ち上がると後ろ手で手を振って歩いていく。
何もできないままだと申し訳ない。

「あのっ、お名前は?」
「……藤次郎」

藤次郎、そう繰り返し呟く。
また会えたらいいなと思い、藤次郎様に撫でられた頭に触れた。









*prev next#



×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -