兄貴のおかげで何かがわかりました

【元親妹】


「こんなの・・・ばれたらお嫁に行けない」
「んなもん俺が嫁にもらってやるからよ」
「ついこの間拒否したくせに」

伊達政宗、所謂藤次郎様が四国の地にいる兄貴に会いにくるという日。
私は事情により兄貴の格好をしていた。

事情と言っても私でもよくわからないんだけど。
兄貴によると『しょうと俺がわからねえような奴には嫁に出さねえからな!』ということなのだけれど。

元々兄妹だから顔は似たもの同士。
だからちょっと髪型やらをいじれば背丈以外は完全に兄貴と同じ。
そんな訳だから・・・というらしいんだけど。
大好きな兄貴だけど、ちょっとこればかりは意味がわからない。

とりあえずこの姿で藤次郎様と会って兄貴ではなく私だと気付いたら仲を認めるということらしいのだけれど。
いや、別に仲とかまずないんだけどね。



そんなこんなで藤次郎様を私の格好に扮した兄貴と自室にて座って待っていた。


『しょうー!I love you!!!!!!!』

しばらく兄貴と世間話をしていたらそんな声が聞こえてきたものだから驚いた。
同時に藤次郎様が来たんだと思ってなんとなく頬が緩む。

「しょう!会いたかったぜ・・・って、なんで元親までいる?」
「な、何言ってやがる、こいつは俺の妹だ。俺がいちゃ何か悪いかよ?
 だいたいアンタが今日会いに来たのは俺だろうが」


そして必死に頬の緩みを抑えて兄貴の特徴である少し掠れた低い声を出す。
たまにしかしないせいか、掠れ具合がひどいけれどなんとか誤魔化せはできるだろうとうまくできたことに少し嬉しくなる。
それで藤次郎様はというと兄貴の方を見て一瞬複雑そうな顔をした。

「とりあえず西海の鬼にはがっかりだな」
「は?」

私何かおかしかったっけと内心で思った瞬間だった。
藤次郎様が兄貴の格好をしている私を抱きしめた。

「なあしょう、女装する兄なんてほっといて奥州に来いよ」
「え、ばれて―」
「好きな女がわからなくてどうすんだよ・・・あ、惚れたか?」
「ほ、惚れてなどはいませんっ!
 ・・・でもこのような姿をしていたとばれてしまいましたら嫁になど行けませんね」
「俺の嫁になれ、必ず幸せにする」

藤次郎様が私の頬に手を添えると、顔を近づけてくる。
これはもしかして接吻というものなのではと思った瞬間に兄貴が私たちを引き離した。


「俺の目の前で何しやがる!」
「何ってkissだぜ?」
「せ、接吻というものをしたかったわけではないけど・・・でも藤次郎様は私だってわかったもの。
 兄貴さっき藤次郎様が私が兄貴の格好してるってわかったら仲を・・・仲を―・・・・・・」


いやいやいやいや。
私別に出会ってそんなに経ってないんだよ、実際は。
しかも初めて出会ってからはほとんど文のやり取り。
それでも奥州のお菓子のこととか、野菜のこととか、南蛮語とかも教えてもらって藤次郎様って凄く物知りなお方だと思ったこともあったけれど・・・好きになっては、ないはず。


「しょう?」
「わっ、と、藤次郎様!お顔が近いです!!」

顔を覗き込まれただけで意識してしまう藤次郎様。

そうだ。
私はきっと今この時点でもう藤次郎様に恋心なるものかはわからないけれど、心はもう取られている。
なんとなく頭で理解したら苦笑が溢れた。







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