08

夏休みが明け、俺にとって待ちに待った登校日。
いや、あっついんだが。しかも、湿気もむんむんで登校日なんて今でもふざけんなと思ってる。

だけど、夏休みの一件。

結局名前のことを、本人には聞けなかった。
勿論チャンスがなかったわけではない。結局次の日にまず夢かどうかを聞こうとしたら俺が付けたらしい紅い痕が見つかりきっかけもあったし、一緒に宿題をしたり時間もたくさんあった。
だが、聞けなかった。
理由はひとつではないだろう。


「つーわけで、頼む…名前が俺をどう思ってるのか教えて欲しい」


昼休み、こっそり元就と鶴の字を人気のない屋上に続く階段へ呼び出した。孫市には名前にばれないように一緒にいてくれるように頼んだ。


「とうとう惚れたか?」
「…わあ、海賊さんもやっとですか」
「いや、そういうわけじゃ…ないこともねえが」


この場合何て言えばいいのかもわからない。
でも夢の中だとは思っていたが、名前を襲いかけたのも事実だ。



「好きになった…かもしれねえ」
「一体何があった」
「キス、しちまった」


素直にそう言えば両方向から腕が飛んできた。鶴の字はビンタ。元就に至っては一発だったとは言え本気で殴りにかかってきた。しかもぐーで。


「海賊さんがそこまでひどいとは思ってませんでした!!」
「いや、だって」
「やめておけ、思春期絶好調のこやつに言ってももう仕方のない話ぞ」
「ちょっ」


二人が普段からそりゃもう俺に対しては口が悪い、そういうのは知ってた。
だけど以前女ができても何も関与してこなかった。こんなことを言われたのは初めてだった。


「それで名前さんは何も言わなかったんですか?」
「それが普段通りにするもんだから後から俺の夢だったんじゃないかとも思ったが…でも首に」


キスマークが、そう言おうとして口を閉じる。最後まで言ったら俺どうなることやらってもんで。
だが、元就は気付いたのか完全に目が冷たい。


「…もう思い出すまでは待てぬ」
「ちょっ、駄目です毛利さん!名前さんが」
「知らずに手を出して傷つくのは名前だけ…貴様はそれでいいのか」
「それは……わかりました」


やっぱりこいつらの中で何かあったのか、何があるのかはわからないが何かあったことだけは確信した。
元就はよく聞け、一言だけ言って呼吸を整えて話し始めた。


「名前は貴様のことが好きだった…いや、過去形ではないな。今でも好きだ。それもずっとずっと前から」
「そうです、今の世が始まる前から」
「…どういうこった」
「簡単な話です、今の世が始まる前。つまり―」
「駄目!」


突如階段に響く大きな声。
噂をすればなんとやらの名前だった。


「悪い、話の内容は知らなかったが3人が集まってると言えば名前が走り出してな」
「…孫市ちゃんには悪いけど。だけど、まだ駄目なの。鶴ちゃん、元就くんも。
 生きてるのは過去じゃないんだから」
「ですが、名前ちゃんっ」
「だからだーめ。元親くんには気にしないといけない義務も、知らないといけない義務もないの」



名前は何を言ってるんだ。

気になる。
知りたい。

この二つの義務がない…?
だが、そう思ってるのはいいんじゃねえのか。


時折見せる寂しそうな遠い目。
泣きながら笑った顔。
赤く染まった頬。


きっと俺はもう名前のことが好きなんだ。




「名前」


俺は何がわかってない。
俺は。
名前のことを。


「元親くん?」
「名前のこと好きだからちゃんと知りたい。俺と付き合ってくれねえか」


やり方が汚いとは自分でも思う。
さっき名前が自分のこと好きだって聞いたばっかだ。勿論自覚してる。

でもどうしてもわからない何かをはっきりさせたいし。
名前の笑顔を見たいというのは嘘ではない。


「本当に私のこと好き?」
「ああ」
「私を誰とも重ねない?」
「…ああ」
「膝枕しても他の女の子の名前呼ばない?」
「それは絶対にしない」


えらくピンポイントだ。
そうは思うものの、名前は納得したのか俺の手を握った。


「何も持ってない私だけど元親くんさえよければお願いします」
「ああ、こっちこそよろしくな」


後ろで三人の晴れない顔が見えたが、関係ない。
きっとそれは俺がわかってなくて、名前を案じてなのだろう。
だけど、俺が名前を笑顔でいさせれば関係ない。

手を握り返し。
今この時から名前との付き合いが改めて始まった。




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やっぱ高校生は付き合っちゃ駄目とか制限ないですもんね(^ω^)
久々にストレートに付き合った気がします…というか長編とかで散々障害があったのでこんなにストレートなの初めてな気がしてならないです



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