06

だいたいの私情を話して一息をつく。

「そんな訳だ、一週間は必死にしないといけない。
 夏休みぐらい休みたいし」

「そうか、なら教えてやろうか俺が?」

「何を?」

「勉強を」

「っ!」


長曾我部が勉強という言葉を出した瞬間に私は息を詰まらせてしまった。
いや、悪気はなかったんだけど。

だって、こんなちゃらちゃらの不良みたいな奴から勉強なんて言葉が出るから。
自分でも失礼だってわかってるけど。


「なんだよ?」

「いや、意外だなって」

「基本俺は勉強しねえけどな、それなりに点は取ってるつもりだ・・・俺みてえな不良に教わるのが嫌だってんなら無理はさせねえけどよ」

「そっか・・・無理じゃなかったら頼んでいい?
 礼は後日するから」

「礼なんていらねえよ、じゃあとりあえず明日からでもいいか」

「わかった、私の家片付けとく」



時間を見れば、もう6時5分前。
早く帰らないと生徒用玄関が閉まる。


「早く帰らないとっ!
 じゃあ明日からお願いしますっ、と。
 玄関閉まるから早くっ!!」

「お、おうっ」


急いで鞄を掴んで長曾我部の腕を掴んで走り出す。
とっさとはいえなんで掴んだんだろう。

答えはわからないけど、何故か長曾我部の手で安心感があった。

自分より大きくて、ごつごつした手。

きっと私の嫁がこの世にいるならば、こんな感じなのだろう。
剣ばっか振ってるから。
・・・なんて痛々しいと言われることばかり考えているんだろう。




「・・・そう言えば、長曾我部も銀髪に眼帯だよね。
 周りからアニキって呼ばれてるし」

「でもどうせお前さんにゃ、アレー・・・なんちゃらっていう男より、いい男には映ってねえだろ?」

「そんなことないよ。
 長曾我部だっていい男だと思うよ、世間一般的に」

「なっ・・・世辞なんていらねえよ、だいたい俺は喧嘩ばっかしてる不良だぜ?」

「少なくても私の知ってる長曾我部はいい男だって。
 現に想われてる人だっているし・・・このリア充が!」


たしか長曾我部には彼女がいた。
そう思い出した私は、ちょうど校門の前まで来た時に掴んでいた手を離した。


「忘れてた、誤解されそうなことしてごめん」

「大丈夫だ・・・どうせ俺はお前さんが思ってるより想われてねえよ」


長曾我部は呟くようにそう言うと少し悲しそうに笑った。


「わんわん飼った方がましだぜ」

「え、犬?!」

「違う、斎藤だ」

「は、私、犬?」


犬扱いされたのか・・・?
どういうことかを問い詰めようとする前に駐輪場の方まで走っていくところを見てしまったので大人しく引き下がった。


今は長曾我部の事なんか考えていられない。
顔をぱんぱんと叩いて、自分で喝を入れた。




  


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