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学校を早退するのは初めてだった。
今まで休んだこともあったし、授業もちょこちょこさぼったこともあった。
だけど、学校行ける日はずっと学校にいたいっていう気持ちが大きくて今まで早退した事は無かった。
せっかく早くに帰路に着いたのでどこかに寄ってもいいかとも考えたが、何しろ普段早退したこともない身だ。
時間があっても逆に何をすればいいのかもよくわからない。
その結果私はまっすぐ家に帰った。
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「はあ・・・ばれちゃったか」
私は高1の時から作家をしている。
所謂恋愛小説というものを書いている。
きっかけはうちの母さんの死だった。
母さんが元々作家だったのだが、何故か売れていたらしく四十九日が終わってから、母さんの担当のかすがさんがうちに来て書き溜めていたものは無いかとか必死に探しに来た。
『やはりありはしないだろうな』
ずぼらな母さんの事、もちろん原稿は無かった。
そんなこと私も、担当さんもわかっていたことだった。
『今月の途中までならできているんですけど・・・。
あと来月締め切りの分下書きならあります』
かすがさんに一連のものを渡してみれば、酷く驚いた顔をしていた。
『これ本当に書いていたのか!?』
『書いたのは母さんじゃないですが、これを元に書くのは母さんです。
連載の為ならゴーストライターでも使うんですよね?
だから、よかったらこれ使ってください』
『それで結局は誰が書いたんだ?』
『下書きと今月分は、私ですね。
私は駄目だって言ったんですけど、母さんが聞かなくて・・・』
素直に白状したけど、これは簡単に許されることではない。
プロの原稿を素人が書いていたんだから。
『ごめんなさい』
『書けるか?』
『え?』
『連載の続きを書いてくれないか?』
『はい!?』
怒られるものだと思っていたから予想外の言葉に驚いた。
声だって裏返ってしまう。
『今回いろいろあったと思う、それでも編集長である謙信さー・・・たくさんのファンが待っているんだ』
『でも私連載はあまり書いたことないです。
それに高校じゃそういうのは禁止で』
断る理由はいくらでも出てくる。
『そうか、なら仕方ないな』
諦めてくれたか、そう安堵した時だった。
かすがさんの目が光った気がした。
『実はな、この今食べているロールケーキあの人好きだったんだ。
よく私の自費で買わされたものだ、月二本。それを十数年1,050円・・・一体いくらになるんだろうな。
ああ、気にするな。これはただの私の独り言だ』
まさか母さんのことを娘に回してくるとは思わなかったけど。
でもここで折れたら、せっかく受かった高校もやめなくちゃならない。
好きなことだって制限される。
『私高校辞めたくないんです!』
『別にこちらはやめろと言っていない。
母親の手伝いをしてやってくれと言っているだけだ、高校じゃ掃除機かけるのも禁止なのか?
・・・名前憧れてたんだろ、悪くない話だと思うぞ』
作家。
幼いころから母さんを見てきて、ずっと憧れてきた。
だけど、簡単になれないと知って・・・。
それで母さんの手伝いをして、代わって書くときは本当に夢みたいだった。
『私が生活の面でも助けてやったりもする、頼まれてくれないか?』
最後の選択。
私は首を縦に振った。
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