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『お侍様・・・』


もう気づけば劇の終盤で。
文化祭の舞台発表トリになったこの劇は同時に文化祭の終盤だ。

文化祭の準備が始まって、台本もらって、稽古やって・・・
終わってしまうのかと思えば相手が鶴の字であろうが寂しくはなる。



『お鶴、愛してる』

(「長曾我部、私・・・長曾我部が好きです」)


『お鶴愛してる。
 この先どんな苦難があろうともこの体をかけてお鶴を守り続ける。
 だからその心くれぬか』

(「屋上から出会って、私の仕事隠してくれたり、勉強教えてくれたたり、お祭り連れて行ってくれたり」)


頭の中で斎藤の告白が鮮明に流れる。


(「泣いてる時に抱きしめて慰めてくれたり・・・
 優しくてかっこいい長曾我部が大好き、に・・・なり、ました・・・」)


『既に鶴の心はあなたのものです』

(「ありがとう」)



体が覚えているとおりに鶴の字の体を抱きしめて顔を近づけさせれば幕が降りたのが見えた。


「みんなお疲れ様!」


幕の向こう側でたくさんの拍手が聞こえる中で、台本兼監督助手をしていた斎藤がひとりひとりにタオルを配る。


「はい、長曾我部」


気づけば俺の前にいて慌ててタオルを受け取る。
斎藤はこのクラスの中で一番と言っていいほど満面の笑みでこちらがそれを見て笑ってしまった。


「じゃあ鶴姫ちゃん、長曾我部からカテコだよ」


再び幕が上がり、拍手に包まれてお辞儀をする。
俺たちに続き役に付いた奴ら、大道具、そして監督と一緒に斎藤が出てきて思わず今までよりも大きな拍手を送ってしまう。


『ありがとうございました!!』


最後全員でお辞儀をすれば、再び幕が閉じた。
その瞬間に斎藤を舞台の外の、人目のないところに連れ出した。


「長曾我部?」

「あー、えっと、本当お疲れさん!」

「長曾我部もお疲れ様、すごくかっこよかったよ」

「ちなみに私ちゃんと見てくれてましたか?」

「勿論鶴姫ちゃんも可愛かったよ―!?」


いきなり聴こえた鶴の字の声に二人同時で驚く。


「なーんて、言っておきますがすぐにでもこんなところ人目につきますよ」

「人目?」


運悪く鶴の字には俺の意はしっかりと気付かれちまったみたいだが、運良く斎藤には気付いていなかった。


「名前さんも本当にお疲れ様でした!」


そしてわざとらしく俺にウィンクをしたのに、これは貸一つじゃ足りねえなとため息をついてしまう。
状況がわからずに首をかしげる斎藤を違う場所に連れて行こうと手を取る。

本当に自然と伸びた手だった。
だけど意識してしまえば恥ずかしくなるが、力任せにぎゅっと握る。


「じゃあお二人共、今日は8時までには門がしまりますからね」

「どういうこと?」

「ほら行くぞ」

「う、うん」



少し暗くなってきた窓越しの空を見上げながら屋上までの階段を上っていった。

二人で、手を繋ぎながら。




  


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