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「飲み物買いに行くって言ったくせに!!」
「え、斎藤?」
後ろ姿に思いっきり叫ぶと振り返る長曾我部。
不思議そうな顔して私を見てる。
「慶次は?」
「振ってきた」
思い返せば今すぐにでもまた泣きそうになる。
長曾我部が近づいてきたら涙に気づいたのか親指で私の涙を拭った。
「長曾我部、私・・・長曾我部が好きです」
「え・・・?」
「屋上から出会って、私の仕事隠してくれたり、勉強教えてくれたたり、お祭り連れて行ってくれたり」
「斎藤・・・」
「泣いてる時に抱きしめて慰めてくれたり・・・
優しくてかっこいい長曾我部が大好き、に・・・なり、ました・・・」
ああ、また泣いてるなんて格好悪い。
しかも恋愛小説なんて書いてる身で言葉が出てこないなんて。
「斎藤俺―」
「ごめん、いきなりこんなこと言っちゃって。
長曾我部に好きにってもらいたいって思うのは贅沢だってわかってるから・・・ごめん、本当にごめん。
私ちょっと今ひどい顔してて電車にもバスにも乗れそうにないから慶次に連絡するから二人で帰ってて」
「ちょ、斎藤!!」
後ろで名前を呼ばれるのを感じながら耳をはさんで走り去った。
長曾我部が見えなくなるまで走って走って走った。
「慶次・・・っ、ひっく・・・」
『大丈夫、名前!?』
「私しばらく帰れない状態だから慶次長曾我部と帰っとい―」
「慶次、斎藤は俺が責任持って連れて帰るから安心しろ」
慶次に電話で話してたのに、携帯を取られたと思えばさっき置いてきたはずの長曾我部で。
焦りながらも次々と私の知らないあいだで進んでいく会話に焦り始める。
「つーわけで、帰るぞ」
「あ、あの」
「泣いてる私慰めてくれてありがとうとか言った奴は誰だ、俺が泣かしてんじゃねえか。
俺最近自分でさ、自分が誰がどうとか考えることを避けてたんだよ・・・お前さんといるのが楽しくてな」
「長曾我部・・・」
「今は言葉にできねえけどちゃんと返事するから待っててくれ。
でもこれだけ言っとくが、俺すんげえ嬉しかった、お前さんみてえな奴に好きになられる野郎なんて思わなかった」
今度は私の目元を自分のタオルを取り出して涙を拭う長曾我部。
本当に長曾我部は優しくて仕方がない。
「ありがとう」
今できる精一杯の気持ちと、精一杯の声。
帰りの電車は一言も喋らずな状態だったけれど。
それでも長曾我部の隣はやっぱり心地よかった。
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