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結局最初言っていたデートとはかけ離れた形となった今回のお出かけ。
たぶん慶次がいるところからまずその形は崩れ去ったんだろうけれども。
「やっぱ見るのもいいが実際に海に来るのもいいよな」
長曾我部のありがたい解説ツアーも終わり日も暮れてきたので水族館を出て近くの海に出た。
三人仲良く遊んだのはお祭りぶりだったと思い出す。
「はーすごい楽しかったなー、イルカも可愛かったし長曾我部の説明もわかりやすかったし」
「そりゃよかったぜ」
「そういや慶次途中でナンパされてたでしょ」
「されてないって!
ちょっと話しかけられただけだからね」
『ふーん』
長曾我部と顔を見合わせて慶次の反応を伺っているとこちらが笑ってしまいなんの意味もなくなった。
「あ、俺ちょっと飲みもんでも買ってくる」
「そうなの?
あ、かばん見とこうか?」
「あ、あー・・・いや、持ってくわ。
ありがとな」
何故か飲み物を買うだけなのに荷物をまとめだす長曾我部。
それを見送れば浜辺で慶次と二人きりになる。
「慶次との関係もずっと変わんないね、いいねこういうの」
「そうかな?」
「本当に慶次といると和むというか、私の安らぎが慶次というか・・・」
「それは喜んでいいんだよね。
でもさ、俺さ」
座りながらも慶次が顔をこちらに向けてくるので、同時に私も顔を慶次の方へ向ける。
すると夕焼け空を背景に、慶次の美人さが映える。
「俺このままの関係じゃ嫌なんだ」
「え?」
「俺名前のことが好きだ」
「・・・・・・・・・」
慶次が昔から私のことを好きだとかそういうことを言っていた自覚は勿論ある。
最近では慶次が雑賀先生と仲がいいからという理由で雑賀先生の名前を出してきたのは私自身。
そろそろちゃんと答えないといけないという思いが湧き上がる。
「慶次・・・私ね、慶次のこと好きだよ、そりゃ勿論かっこいいし優しいし自慢の幼馴染なの。
私がたまに慶次を男に見ても、ずっとずっと『慶次』なの」
いざ時が来れば頭の中はごちゃごちゃで何を言っているのかわからなくなる。
それと同時に申し訳なさと、プレッシャーで涙が出てくる。
「ごめ、ん、ごめっ・・・私慶次のこと大好きだよ・・・だけど、だけど慶次のこと大好きだけど、好きが違うの・・・」
「わかった・・・わかったから泣かないで、ね、名前?」
「ごめん・・・でも、本当に慶次のこと大好きだよ・・・本当ごめん・・・でもね、私、嬉しかった・・・私のこと、好きになってくれて、ありがと・・・」
「でも俺のこと何度か男って見てくれたってことだよね?」
「うん・・・」
私より慶次の方が辛いのにいつの間にか慶次は私の慰めに入っている。
昔みたいに泣きじゃくってる私をぎゅっと抱きしめて頭を撫でてくれる。
「ありがとう、振ってくれて」
「え?」
「これで俺この17年今のところは吹っ切って、名前の恋応援するからさ!」
「へ・・・え!?」
「元親まだ近くにいるはずだから早く行っておいで、ほら走って!」
慶次がポンッと頭を叩き、背中を押す。
そうしたらなんだか体が軽くなった気がする。
そのまましばらく走れば、帰る途中の様子の長曾我部が見えた。
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