30
眠れないまま夜を過ごし、目覚ましは7時にセットしたのに既に10時。
出発予定時間は10時半といったところ。
寝坊じゃねえの。
つい建国しちゃったりする人みたいなことを一人で呟いちゃってしまう。
それでも実際余裕はあまりないのであっはっはとか笑いながらも急いでシャワーを浴びて、上がるなり髪乾かしたり、準備したりで。
出るのは10時半ぎりぎりだった。
時間には間に合いそうだからよしとしよう。
「あ、二人共もう来てる」
待ち合わせ場所は市内でも大きな水族館。
長曾我部が選んだんだけど、そこがもしも彼女とかと通ってたらって思うけれど少しは複雑な気分になってしまうけど。
だけどそこに私と慶次、どうせ友達としか思ってないんだろうけれど私の頑張りでなんとか・・・。
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・なんとか変わればいいなあ・・・。
「おはよー!」
「おう、おはようさん」
「おはよ・・・って名前前髪ちょっとはねてる」
「え、嘘、走ったからかな」
慶次にはため息をつかれながら、長曾我部には少し笑われながら大人しく髪を撫でて整える。
「やっぱり休みの日って人多いね」
「そうだな、俺も久々に来たんだけどここまで人多いとか思ってなかった」
「あれ元親久々っだったの?」
「この歳じゃなかなか一人で行けるわけねえだろうが。
さっさと並ぼうぜ」
・・・ん。
ということは、
長曾我部がしばらく来てなかったってことは。
彼女とは来てない場所だったていうことだよね。
別に関係が進んだわけではないのにちょっぴり嬉しく思ってしまう。
「何ボーッとしてんだ、行くぞほら!」
「あ、うん」
ラッキーにも長曾我部に手をひかれながらチケットを買って、中に入る。
中に入ればいきなり見えた大きな水槽に目をひかれる。
「わあ・・・」
「本当海ってすげえよね、こんだけ魚が見れても海にはこれとは比べもんにならねえ数がいんだぜ」
「海って不思議で満ちてるよなあ。
まあ俺的には二人がずっと手繋いでるっていうのがすごい不思議だけど」
『っ』
慶次の視線と言葉で反射的に手を離してしまった。
だけどよく考えたらずいぶん惜しいことをしてしまったということですぐに後悔した。
「悪かったな、つい興奮しちまって気づかなかった」
「全然悪くないっ、あ、私別に嫌じゃなかったからね」
必死に冷静さを取り繕うとはするものの言葉が詰まりに詰まる。
そんな私を見て長曾我部は笑って頭をポンポンと叩いた。
「気遣ってくれてありがとな」
そういう長曾我部は本当に優しくて流されてしまいそうになる。
きっと長曾我部が今までもててきたのも顔だけじゃなくてこういう元からの性格もあるんだろうと勝手に考える。
「まあまあお二人さん、次行こう?
時間は有限なんだからさ」
「うん、そういや慶次もテンション上がってるね」
「やっぱ俺海とか好きだからとかもあるけど、久々に名前と遊べてるからな」
そう言われて私自身の生活を思い出してみる。
父さんは単身赴任。
唯一の兄は上京。
よっぽどのことがなければあまり遠くまででない。
「こんなところまで出る事自体私も久しいよ」
「・・・お前さんらも二人の世界入ってんじゃねえかよ。
斎藤、イルカとジュゴンどっちがいい?」
「じゃあイルカで!」
「了解っと」
『じゃあ目指すはイルカショーだな』と機嫌よく言った長曾我部に付いて、それから日が暮れるまで長曾我部の解説付きの水族館ツアーが始まったのだった。
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