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やっぱり私自身がプロになったわけじゃなかった。
その分確かにいろいろ考えたことはある。
だけどいつも最後にはかすがさんに慰められて考えるのをやめて原稿に向かう。
私の高校生活ももう長くはない。
いずれ進路先だって決めなければならない。
そんな時私は何を書けばいいんだろうか。
きっと小説家なんて書けばなれるのはひと握りだと言われて諦めるよう促されるんだろう。
でも私は大学生になれる自身が学力的にない。
将来を迫られる。
「斎藤!」
「え、長曾我部?」
涙もそろそろひっこんだ頃。
屋上の扉が開いたと思えば長曾我部。
「さっきすごい勢いで飛びてていったからよ、大丈夫なのか?」
「え、なんかごめん、でも私大丈夫だからね?」
「ならいいけどよ。
・・・そういやここで泣かせちまったんだっけか」
私の隣に座り込んだ長曾我部が空を見上げながらなんとなくそう呟いた。
すると回想される記憶。
サイン本を見られて、長曾我部にマジック投げつけて、泣きながら全力疾走して・・・
今よく考えたら私何してたんだろう。
すごく阿呆な子じゃないの。
「あの時は本当ごめん」
「いやいや気にしてねえけどよ。
そういやこれから先もずっと小説書き続けるのか?」
「んー、母さんが生きてたらって考えてみてもそろそろ頃合見て引かなきゃならないんだよね」
「自分では書かねえのか?」
自分で・・・。
今まで目の前のことに必死でそんなこと考えたことなかったけど。
書き続けられる可能性、あったんだ。
「鶴の字が芝居前に読んどけって言って押し付けた恋愛小説、誰のだと思う?」
「母さんか私?」
「発行されたのは一年前、つまりお前さんだよ。
好きだって言ってたぜ」
鶴姫ちゃん・・・。
好きだっていうのは直接言われたわけじゃないのにくすぐったい気分になってしまう。
「ありがたいなあ。
でも実体験がないんだよね、自分の名前で出すならそういうこと経験しないと」
「慶次は?」
「慶次には長曾我部がいるじゃないの」
「いつまで誤解してんだ」
「・・・それにやっぱり幼馴染ってなかなか抜け出せないもんなんだよ。
確かに男だって意識することはあるよ、だけどその気持ちに慣れてしまって慶次は慶次だって心地よさを感じてしまえば恋はできない」
まあ慶次は私の居心地のよい居場所・・・みたいな感じだけど。
まず慶次は私よりもっと可愛い女の子が似合うもんなあ。
「そりゃ大変なこった」
そう言って笑った長曾我部に一瞬どきりとしてしまい、鶴姫ちゃんの言葉を思い出すことになるのだった。
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