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『その内名前さんにも嫉妬されちゃいますね』
鶴姫ちゃんに私が恋をしていると言われて数日。
相手は長曾我部らしい。
本当自分でもわかってない分たちが悪くて仕方がないのだけれど。
でも鶴姫ちゃんの嫉妬するとかそういうことは一切なかった。
むしろ二人の演技見てたらこちらが息を飲んで観劇しちゃうぐらい。
『必ず幸せにすることを誓おう』
『お侍様・・・』
『お鶴、愛してる』
真面目な顔して演技をする二人は本当に犬猿の仲だとは思えない。
結局続きの話はシンデレラの本家のように、しばらく経って再会を果たして二人の愛が燃え上がって一緒になることになる。
平凡かもしれない。
私自身も迷ったけれど好きな人と一緒にいること、それが幸せなことなんじゃないかと鶴姫ちゃんに諭されてそうなった。
「名前さーん!」
「あれ、終わったの?お疲れさま〜」
教室の隅でどう演出したらいいんだろうとかそんな細かなことを考えていたら鶴姫ちゃんが寄ってくる。
終わったあとなのか笑顔がすごく輝いている。
「えへへ、さっき終わったんです。
名前さんの話海賊さんが相手というのは心底悔しいですが心があったかくなります」
「ありがとね・・・」
「台詞とか知ってる作家さんに似てるんです、そこも楽しくて」
作家さんと言われて一瞬びくっとしてしまうけれど心をなんとか落ち着かせる。
別に母さんの名前を呼ばれたわけではない。
だから・・・だから・・・そう思ったのに。
「でもその作家さんこの数年でちょっぴり書き方が変わったみたいなんですがその書き方を思い出して。
名前さん恋愛小説とか読みますか?よろしければお勧めしたいなと思いまして・・・海賊さんのこととかもありますし」
「え、あ、恋愛小説とかはあんま読まないから遠慮させてもらう、よ・・・」
鶴姫ちゃんは別に名前を出してない。
だけどなんとなくそんな気がして続きが聞けなくなった。
「名前さん?」
「ごめん、ずっと考え込んでくらくらしてきたから外の空気吸ってくるね!」
勢いよく立ち上がって駆けて屋上の鉄の扉を開ける。
するとなんだか泣きたい気分にしばらくして涙が溢れた。
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