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夏休みが開ければあっという間に文化祭シーズンがくる。
どうやら夏休み前にも、夏休み中にもいろいろと準備やらやってたらしいけれど帰宅部身分の私にはあまり関係がなく夏休みが終わった今準備の出来に感心する。
帰宅部だからクラスの出し物だけはちゃんとやろうと思ってたらまさかのテーマは日本版『シンデレラ』の劇で。
演劇部がないからってそんな定番っぽいのを選ぶべきではないだろうという感じだ。
それでこりゃ演技力ない私回避フラグだな〜なんて思っていたらまさかの台本係がまわってきた。
言ってみればそれしか取り柄もないし、別に気にもならなかったけれどね。
だけど、まあ・・・恋愛ものになれば自然とセリフやシチュエーションは考えるのは楽しいんだけれど。
時代劇版ってなんだとすごくつっこみたかった。
あとから聞けば、元から案として出ていたのが『シンデレラ』。
それを凝ろうよと言って時代劇版。
うちの学校の文化祭は珍しく冬にある。
もとの話がある分原稿より考えるのは楽そう・・・だけど、もとの話があるからこそプレッシャーを勝手に感じるのだった。
思えば母さんの時もそう。
かすがさんに書いてみないかと言われ、もしも母さんじゃないってはっきり言われたら・・・
母さんのファンが離れてしまったら・・・
すごくプレッシャーを感じたのを覚えてる。
本音を言ってしまえばやっと安定してきた今でさえも、私はまだ怖い。
「ふうー」
教室内でだいたいの役を決めていく中、一人で話を考える。
日本のシンデレラだからいっそ『落窪物語』でもいいのかもしれない、だけどなんだかそれで済ませてしまうのは申し訳なくて
王子は殿様。
シンデレラは一般庶民。
卑しい身分に拾われた先への加害。
魔法なんてなくて、時の運・・・所謂運命。
一晩の惚れた腫れたの恋物語。
王子、殿様に残されるものはシンデレラの、シンデレラの・・・・・・何にしようか。
一人で想像にふけっているあいだにも役が次々と決まっていく。
王子は長曾我部。
シンデレラは鶴姫ちゃんという学校中で可愛いと評判の女の子。
あとは私の話によって役が決まっていくらしいんだけど。
「名前さーん!」
「え、あ、はい!?」
「どうもです〜」
よってきたのは先ほどシンデレラに決まって鶴姫ちゃんで私の机の前で両手を合わせてお願いのポーズをする。
「お願いです、海賊さんとの距離はだいたい遠いお話でお願いします!!」
「海賊さん・・・?」
「長曾我部さんです!私あの方とは昔から合わないんですよ」
「あらら、それは。
でも最後ってやっぱり定番はキスシーンなんじゃ」
『それだけはお断りだ/です!!』
突然加勢した声に身体がびくっと震える。
いつの間にか長曾我部もいたらしく、鶴姫ちゃんと並んでうんうんとうなづいている。
「よく二人で2大主役決まったね」
「海賊さんは容姿が無駄にいいですからね」
「それを言ったら鶴の字お前もだろうが!」
「違います〜、ほとんどの女子の皆さんが海賊さん狙ってるから解決策として私が押されたんです〜」
まったく迷惑な話です、と鶴姫ちゃんがつぶやくとちょっと怒る長曾我部。
そのあいだで私はというと笑うしかなくて。
でも二人のためもあるけれど、ひとつひとつの行動や言葉の中に恋愛要素を入れて最後をあまり過度なことをさせないように頑張ろう。
そう思った。
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