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「まだ落ちてはいないか」
「え?」
「・・・いや何でもない」
釈然としないままに首をかしげていれば、またドタバタという足音が聴こえた。
「かすがさん、ほら原稿はちゃんとできてます!」
「よしよし、じゃあ来週にでも甘いものでも食べに行くか」
「やった!」
斎藤の様子は学校で見ているよりも犬に近い気がする。
かすがさんに頭撫でられて、ちゃっかり餌付けされて・・・。
正直担当が男だったらアウトな線だろう、これ。
「どうしたの長曾我部?」
「ああ、いやなんでもねえ!」
「名前、邪魔者の私は退散するな」
「ちょっ、かすがさん!?」
『・・・・・・・・・・・・・・・』
最後の沈黙は本当にかすがさんのせいだと思う。
絶対余計な一言だっただろ。
「いろいろと本当ごめんね、長曾我部」
「俺は別に大丈夫だからよ、何もしてねえしされて―」
「私抱きしめ、て・・・」
同時に思い出してしまったのか、二人でばっと目を逸らす。
別に女を抱きしめたってのは初めてだったわけではないんだが、露骨に斎藤が赤い顔するもんだから・・・健全な男子の気持ちも汲み取って欲しいとも思う。
「ああ!!」
「どうした!?」
「彼女持ちなのにすいません、ごめんなさい!!」
突然大声と張り上げたと思えば、突然の謝罪。
コロコロと変わっていく表情に今度は笑うしかなかった。
「大丈夫だ、今は誰とも付き合ってねえから」
「本当?」
「ああ」
頭を撫でながら諭せば、気持ちよさそうな顔をする。
ああ、何とも思ってないのにな。
思っててもわんわんぐらい。
だというのに、名前といる時間は俺の中ではすごく安らぐのだった。
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