18

無事わんわんを家まで送り届けた頃には雨が随分とひどくなっていた。
こりゃ慶次も帰るときは大変だな。
・・・あいつなら人に入れてもらえるか、心配はなかったな。


「なあ傘だけ借りてっていいか?」

「駄目」

「へ?」


帰ろうと思って玄関にあった傘を指差してみると即答された。
しかも駄目だということで。

つまり俺は濡れて帰れってこと・・・だよな?
まあそんなやわな体ではないし、大丈夫か。
そう思って踵を返し走ろうとした時だった。


「そんな状態で帰らせられないから。
 風邪ひいちゃうから家入って!」

腕を掴まれて家の中に入れられてタオルを取ってくるからとだけ言い残してわんわんは俺を一人残して行ってしまった。

しばらくして一枚のタオルを持ってきた。


「ごめん、重かったのに。
 長曾我部一人ならそんなに濡れなかったのに・・・」

「斎藤・・・。
 別に重くもなかったぜ、それに俺だってお前さん持てねえぐらいにまでひょろい体じゃねえんだぜ」

「ううん、でも本当ごめん。
 今あったかいの入れるから座ってて」

「ちょっ、おい!」


俺を座らせると忙しそうにまた動き回る。
わんわんは浴衣だけ脱いでハーパンだけ穿いたみたいなんだが、シャツ一枚だと少しだけ下着が透けてるというか・・・。
髪も濡れたままだし。
まずは自分の心配をしろということなんだが。


「ちっと洗面所入るぞ、タオル借りる」

「あ、私が取る−」


わんわんの言葉を遮り、勝手にドアを開けてタオルを取る。
そしてさっきいた居間に戻るなりわんわんの腕を引っ張って床に座らせた。
無言で持ってきたタオルをわんわんの頭にかぶせてみれば体が大きく動いた。


「いきなり?!」

「まずは自分のこと心配しやがれ、馬鹿野郎!
 俺なんて滅多に風邪ひかないんだから・・・なのにお前さん、髪濡れてるし体も濡れたままだし」

「・・・ごめん」


反省したのか大人しくなった。
でも大人しくなれば少し気まずいというもので。
俺は髪を拭いてるだけでも相手は女子だ。
しかも話すようになったのは最近だ。


「・・・気にすんなよ、俺が一方的に言いすぎただけだから」

「いや、なんか長曾我部といると安心するというか」

「え」


一瞬言葉を疑った。
わんわんが俺といると安心するって・・・。
そんな言葉男女が二人きりで言うにはかなりの段階な気もする訳で。
いや、わんわんはそんなこと思っているわけがない。
頭で違うとわかっていても胸が高鳴った。


「私まだ母親離れできてないんだろうね。
 長曾我部なんか母さんみたいだ・・・ってこれは年頃の男子には言っちゃ駄目か、さっきのなしなし」


まあ期待なんてもんはしてなかったんだが。
どうせわんわんだもんな。
高鳴ってしまった胸が恨めしい。
思った時には手が出ていた。


「っ、いたっ!
 別にそんな怒らなくたって!」

「相手が俺じゃなくて言葉聞き終わらないままに誤解されたらどうすんだよ、知らねえぞ。
 斎藤だって花の女子高生だろうが」

「・・・花なんかないもん」

「あぁ!?」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


やっと折れた頃には髪もだいぶ拭けた。

わんわんは終わるなり立ち上がるとマグカップを俺に持ってきた。


「はい、長曾我部。
 いろいろありがと」

「お、おう!」


こんなにあどけないところを見せる斎藤が本当に今までプロの作家としてやってきたとは思い難いが。
・・・確かに守ってやりたいとかそんな感情は自然に出てきてしまった。
たぶん愛犬を想う気持ちみてえなもんなんだろうが。





  


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