13
長曾我部のおかげで無事夏休みを送れることとなって、ただいま夏休み前日。
終業式も終わってロングも終わり、部活のない奴らはさて帰ろうかという時間。
私はたいへんなことを忘れていた。
長曾我部もお礼・・・・・・
先日かすがさんは担当としてお礼をしていたけれど、私に至ってはまだ何もしてない。
後日だと自分の中で決めていれば、なかなか言い出せずに時間が経って今に至る。
はあ―・・・だから私は締切もぎりぎりなんだ、改めて理解できた。
そうだ、明日やろうは馬鹿野郎だ。
今日逃してしまえばよっぽどのことがない限り長曾我部に夏休み終わってからでしか何もできなくなる。
なら、今日こそせめて約束を取り付けて!
そう思って教室を見渡せば、長曾我部はもういなかった。
でもまだいる長曾我部の取り巻き。
学校にはいるな、勝手に確信をして急いで教室を飛び出て長曾我部を探しに行った。
そして長曾我部は思っていたよりも早く見つかった。
学校の駐輪場、よく不良のたまり場としてある場所だが案の定そこにいた。
お前ら本当に不良かとと言いたくなるぐらいに潔い。
だけど声かけようと思っても長曾我部の周りには既に何人かの取り巻きがいる。
取り巻きと言ってもタメなんだけど、話が盛り上がっているらしくその中に入りづらい。
「どうしよ、でも今日は絶対って決めたし、だからと言って今は入りづらいし、どうしよ、ああどうしよ―」
「何だてめえは?」
「っ!?」
一人で壁に頭をぶつけながらどうしようかと考えていると一人の男子生徒に声かけられた。
きっと端から見たら私が怪しく見えちゃったんだろう、振り返ると凄い睨んでるのが見えた。
「い、いや、決して変なものじゃなくて」
「・・・誰だと思えば斎藤さんか」
「へ、え、どちらさま?」
きっとさん付けがあるから年下なんだろうけど。
それにしても見た目が不良とかそういうこと言う気はないけれど、意外と礼儀は正しそう。
・・・とかそんなこと考えている場合じゃなくて。
まず彼は何で私のこと知っているかっていうことと、そして何で私の背を押して長曾我部の前まで連れて行こうとするんだ!?
「アニキ、斎藤さんがおいでですぜ!」
「斎藤・・・ああ、わんわんか」
「人の事何自然に犬扱いしてんだ、馬鹿」
「あ、悪い。
んでこんなところにどうしたんだよ?」
背中を押されて、長曾我部の前躓いて、ちょうど長曾我部に体を受け止められたと思えば犬扱い。
しかも周りが一斉に静かになって目がこちらに集まる。
こほん、と咳払いをして体制を整えて立ち上がる。
そして、此処で言いにくいから後で会えたら話したいことがあると言うだったのに。
「ここじゃ言いにくいっていうか、そのなんだ、あとで二人きりになれたら言いたいことがあるから」
「今じゃなくてか?」
「ん、できたら二人きりでお願いしたいと言うか―・・・」
『うあああ、いきなり腹がっ』
『おえ、ごっほごっほ、くそっ、俺はもう駄目だ』
『アニキだけは、アニキだけは必ずっ、うおおおおおお』
『俺の右腕が、ちくしょう!』
「「!?」」
長曾我部と一緒に驚いてしまうほど激しく帰っていった周りの人たち。
いや、気を遣ってくれたんだろうけどなんだか凄く申し訳ない。
それ以上におもしろかったりすることがあるんだけど。
「これで二人きりになった訳だが話って何だ?」
「ああ、勉強教えてもらったお礼がしたいんだけどいつの間にか夏休み前日になっちゃったんだが何をすればいいか思いつかなくてな・・・。
何か私ができることでして欲しいことがあったらするんだけど」
「して欲しいことか、そういうのはなかなかすぐには・・・すぐには・・・・・・そうだ」
思いつくの早っ。
すぐには思いつかないと言いそうになったんだろうけど、だいぶ早かった。
これは頭の回転がどうとかなのかはわからないけどとにかく早すぎるだろう。
「夏祭り俺と二人で行ってくれねえか?」
「近所の神社でやる奴?」
「ああ、そうだ」
「でも長曾我部、そういうのって彼女とかそう言う人といくもんだぞ。
あの美人の彼女がいるじゃんか・・・・・・リア充、ふざけんな」
私の心の声が少し出てしまったけれど長曾我部は気にせずに続ける。
「だからだよ!
俺正直そういう祭りってのは好きな奴と行きてえんだよ、彼女やらそんなところと一緒にいたって何も楽しくねえんだよ。
男友達と行くっつったってじゃあ友達連れて行くとか言いだす奴がいる世の中だ」
「さいですか」
「だから頼む!」
「まあ私としては祭り自体はいいんだけど、恨まれそうな立ち位置だねそれ」
「大丈夫だ、そこんとこは俺がなんとかするって」
「うんほんと、慶次はやっかいだから頼むね」
「おうよ!・・・・・・え、慶次?」
長曾我部の彼女とは別に慶次の心配。
まあ慶次とはこれまで幼馴染やってきたもんで毎年一緒に祭りで回ったりする。
というか恒例化しているのだ。
なのに未だモテるとはいえ独り身である慶次を置いていくなんて・・・とてもじゃないが良心がいたむね、これは。
「やっぱ慶次もいれて3人で行くか」
「なら大丈夫」
「・・・・・・そりゃ斎藤と二人きりになってみろ、俺がどうなることか」
「え、何?」
「いや、何もねえよ」
何もないと言った長曾我部の汗が尋常じゃないほどのものだったけれど。
夏はやっぱり暑いもんなあと実感しながら使ってなかったタオルを渡し、その場を去った。
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