12

『名前が帰ったら改めて話をする時間をもらってもいいか?』

斎藤が来る少し前に待ち合わせ時間に付いていた俺はかすがという斎藤の担当だという人にそう言われた。
その目は別に警戒をしている訳ではないが、多少は心配事があるのだろう。
少し距離があった。


**********



そして。
斎藤が帰り、残された俺たち二人は別の喫茶店へ入った。


「悪いな、残らせてしまって」

「いえ・・・それで俺に話って?」


おそらく斎藤の仕事の事なんだろうが。
案の定その通りらしくかすがさんは一つ頷き、話し始めた。


「まあわかってると思うがあの子の話だ。
 あの子が書き始めたのは母親が死んでからで、本格的なものは高校に入ってからだと言っても、ほとんど中学のころからだ」

中学・・・?
あいつ中学であんな大人向けのもんなんか書いてたのかよ・・・。

「それで、だ。
 うちの雑誌じゃあの子の名がメインだ、今は影武者だがいずれ真となる・・・あの子がだ」

「俺は誰にも言うつもりはありませんけど」


斎藤にも約束したと言ってみれば先程から張りつめていた頬が少し緩んだ。


「ああ、信じさせてもらうぞその言葉。
 あの仕事はあの子の目標であり、夢だった。
 いずれは堂々と母親のものではない名前が載るだろう」

「ホープなんですね」

「ホープどころか、今でも稼ぎどころだ。
 このことは秘密だが」

「・・・たしかに主導権は持っておいた方がいいな」


一人納得する俺にかすがさんもまた頷いた。
先程から何かと気が合うとは思っていたがここまでとは思わず、思わず笑った。


「きっと俺も一人のファンだからですかね、斎藤の」

「そうだな」


いずれ大物になっていくんだろう。

だから、せめて高校ぐらいはいい思いさせて卒業させてやりたい・・・そう思った。
別に俺ができることは少ないだろうが何か助けられることがあれば助けてやりたい。


「これからも頼む」

「ああ・・・ちゃんと卒業させてやりますよ」


別に不良でもある俺が言えることでもないが、何故か言葉に出すことによって急な使命感が出てきた。


「俺ができることなら・・・」


大物になる、ということはわかったが。
相変わらず斎藤を浮かべると出てくるのは犬で。

俺も相変わらず馬鹿だと笑った。





  


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