09

インターホンが鳴り急いで玄関へ行ってみれば、かすがさんが見えた。

「え、なんで・・・」

「増えた」


そう言ったかすがさんの眼には優しさは一つも見られない。
何が増えたと考えてみても・・・思い当るのは原稿の量だろう。
たまに他の雑誌との併合企画によって小ネタを書くことはある。
それが夏、リア充やら非リア充だけど恋愛的な空想大好き人間やらの本番の季節になれば・・・・・・。


「嫌だ嫌だ嫌だ、嫌です!!」

「ちょっ、おい、待て!
 いきなり人を追い出そうとするなっ!」

「駄目なんです、て!」

「だからってドアを閉めるな!」


かすがさんの背中を思いっきり外へ向かって押して、ドアを閉めようとするがそうされてたまるかとかすがさんが無理矢理に家の中へ入り込もうとしている。
ここで私が折れたら増えるのは仕事、減るのは夏休み・・・。
二つに一つなのだ。
負けられない・・・。

だが、そう決心したところだった。


「どうしたんだ、さっきから喚いてよ?」

不意に現れた長曾我部の声に一瞬驚いてしまった私の腕の力が抜けた。
かすがさんはその隙を逃さず、ドアを勢いよく開くとずかずかとヒールを鳴らして入ってきた。


「・・・こいつは誰だ?」

「え、あ、ああ、クラスメイトの長曾我部君です」


家の中に人がいるとは思わなかったのかかすがさんは長曾我部を見るなり、冷静になってきた。
証拠に自分の上着の襟をぴんと引っ張っていたりする。


「名前もいつの間に男を連れ込む様になったか」

「男は別に長曾我部だけじゃなくて慶次を連れ込んでるじゃないですか、別に今更です」

「仕方ない、今日の所は帰ってやる・・・だけど仕事はちゃんと受けろ、わかったな」


さっき私を追い出そうとした罰だ、と言ってでこぴんをわざわざしてからかすがさんは家の中には上がらずに帰っていった。
残された封筒、それにはまた夏休み企画うんたらかんたら・・・なんていう言葉が入っているのだろう。


「はあ」

「大丈夫か?」

「まあ、仕事が入っただけだし。
 ごめん、いきなり抜けて。戻ろうか」

「おう・・・疲れてんなら無理すんなよ、俺だって効率悪い教え方なんてするつもりはねえからよ」

「うん、ありがと」


自然と頭の上にあった長曾我部の手にちょっと気持ちよく感じながら私は伸びをした一瞬だけ仕事が増えて予測されるギリギリの生活を忘れられた。




  


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