涙の星

学校にはひとつやふたつジンクスがあるわけだ。


うちの学校も然り。

『文化祭の後夜祭のフォークダンスで好きな人と踊れたら結ばれる』
『伝説の樹の下で告白したら成功する』

創立100年を超えるから、きっと挙げだしたらきりがないのだろう。
そんなありがたい学校。


そして、本日7月7日にちなんだものもひとつ。

『7月7日の夜に屋上で好きな人と星が見れたら永遠に共にいられる』


初めて聞いたときは学生なのに永遠なんて重すぎるとか、そんなことしか思ってなかった。
だけど、不思議なことに恋をすれば人間少し変わってしまう。
いつしか私の中でそのジンクスは憧れへと姿を変えた。


そうは言うものの私の恋は片思い。これから叶うこともないとわかっている。そんな恋。
理由はとっても簡単。
恋した相手が、この学校の教師だからだ。


長曾我部元親。25歳。理系科目に関しては何でもござれな先生。
実際に理系の物理、文系の地学と化学を教えていて常多忙な先生だ。


そんな先生に恋に落ちたのは一年前。
放課後、まだ時間が早くて部室となる集会室が保護者会によって使われていた時。私は何気なくすぐ近くにあった屋上へ続く階段を上がった時だった。
屋上へは鍵の関係で出れないのだけれど、ただひとりで保護者会が終わるのもどうだろうと考えた末のこと。
屋上の扉を目の前にし、座り込んで何となく最近聞いた歌を口ずさんでいた。
するといきなり目の前の扉が大きな音をあげて開いた。


『あー、生徒にバレちまったか』


後に聞けば、忙しいけどたまには一人の時間作って休まなきゃやってられないとのこと。
給料分以上に働いてるから許されると胸を張って言っていた。

だけど、その場所が日頃は生徒も先生も立ち入り禁止の屋上で。
結局その時は私が口止めされて済んだのだけど。


先生がいると知ってから、何となく話してみたいという気持ちが湧いていつしか屋上前の小さな場所に通うようになっていた。
そして、知らず知らずのうちに恋心を育てていたのだ。



本日、7月7日。
何を思ったのか、この私。部活が終わってから屋上前へ来ていた。

先生は来るはずもないのに。
一体何を考えたのかは自分でもわからない。

だけど、何となくここへ来てしまいたいと思ってしまったのだ。



「星…綺麗だな」


少しだけ見える空の景色を眺めて呟いた瞬間に下の方から足音が聴こえた。


「おーい、誰かいんのか?もう下校時間だっての」


そう、部活が終わった時間と言えば先生が窓が閉まっているかとか、教室の鍵がかかっているかとか見回りの時間と同時に生徒の下校時間。


「あ、今すぐに帰り…長曾我部先生?」


慌てて帰ろうとするものの、声の主は来ないと思っていながらも心のどこかで来るのを待ち望んでいた長曾我部先生。


「その声は名字か。本当ここでよく会うなあ」
「そ、そうですね」


まさかわざわざ先生に会いに来ているとは言えず、相槌を適当に打つ。
だけど、ここで先生が登ってきてくれたのもチャンス。


「せ、先生!」
「ん?」
「あの、えっと、星が!星、すごく綺麗なんです!」


ああ、我ながら情けない。
なんて不自然。


「ん…ああ、本当だ。なかなかのもんじゃねえか」


だけど、先生は私の不自然な様子を不思議そうに見るもののあまり気にせず、空を見た。
どうせジンクスだってわかっていながらも、更に加えて長曾我部先生がそのジンクスを知らないということがあったと言っても私は恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだった。



「名字、赤いぞ?」
「熱さです!!」
「へえ、ここまで俺を呼んでおいて期待させようとしたんじゃねえのかい?」
「…え?」
「言ってなかったか?俺、ここの卒業生って」


衝撃の一言に、頭の中が白く染まっていく。


つまり。先生の言うことをまともに受け取ったとしたら。

『先生はジンクスを知りながらもここで私と星を見た』


そう、それが事実だ。


「大人をからかうのは関心しねえぞ」
「す、すいません。だけどからかっては…」
「わかってる、名字が大人をからかえねえってことぐらい」


やってしまったという感じがすごい。
今本当に穴があったら入りたい、そしてこの場から逃げ出したい。全力で考えているものの、先生はこの悪いタイミングで私の頭の上に手を載せた。


「聴いとけ。そりゃ俺は名字には手出せねえよ、生徒だからな。
 言ってる意味わかるか?」
「…わかってます。ごめんなさい」
「いや、わかってねえ。いいか、俺は生徒には手出せねえんだ。生徒に教える職業だからな。だから、逆に生徒以外は手出していいんだって。
 で、名字はずっとこの学校に在籍するつもりじゃないだろ?」


それって…。
先生の言葉を期待してもいいんだろうか。

いや、からかってるだけだ。
だけど、そんな考えはすぐにくずれるのだった。目の前の先生の少し恥ずかしそうに笑うその顔に。


「逃げるなら今のうちな?
 何たってもう俺も婚期だからな」
「不束者ですが、先生だって辞めるなら今のうちですよ」


壁に追い込まれたまま、先生に手を伸ばせばぎゅっと抱きしめられた。


「ああ、ジンクスってなかなかのもんだな」
「怖いものです」


もう一度星を見たのは先生の腕の中にいる時。
七夕の奇跡に自然と涙が流れた。





  


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