7月7日、異常なし

「疲れた…もうやだ…ああ…私って…本当…駄目…いやいや、そんなこと考えたら駄目なんだって!!」


7月7日。俗に言う七夕。
七夕なんかはいつもお隣さんと一緒に笹の葉の飾り付けとか、毎年してきた。


だけど、歳を取ればやってくる受験の壁。
本日7月7日の七夕には学校で模試の結果が返ってきて、更に塾の面談なんかで進路相談やらなんやらしてきたからか、随分足が重かった。


「元親は七夕楽しんでるのかな…いいな…」


お隣で、いつも七夕を共に過ごす長曾我部さん家の長男である元親は私と同い年。
だけど向こうは頭がいいので今頃ゆっくり楽しんでいるんだろう。


「許すまじ元親…いや、私の頭の悪さか」
「何だよびびんじゃねえか」
「いや、だから成敗しないって………はい!?」


いつの間にやら隣で私を笑っている元親がいた。
驚きの気持ちでいっぱいなんだけど、今どっちかと言うと独り言を聞かれた恥ずかしさの方が勝ってる。


「おばさんに聞いたらそろそろ帰ってくるって聞いてな。七夕で名前がいねえってのが、これがまた違和感というか何というか」
「ああ、元親寂しかったのかい?私が、この私がいなくて!!」


幼き頃に女の子のような容貌をしていた可愛らしい元親がまだ残っていたのだろか。
ついふざけて両手を広げ、「ちかちゃん!」と叫べば頭を軽く叩かれた。


「ちかちゃんって呼ぶなって」
「何よ、昔は元親って呼んだらちかちゃんって呼んでって…それはもう本当にこの世のものとは思えない可愛らしさで言ってきたくせに」
「…はあ、何で俺ここまでやってこれたんだろ」


なんて失礼なことを言われているんだろう。
まあこの長年の付き合いで嫌み事言われるのも慣れている。


「残念だったね、腐れ縁だよ!!
 そして、私はたとえ元親が私のこと疎ましく思おうが私は元親のこと大好きさ!!」


そんな流れで、ふざけた調子で返すのも慣れ。
何故か元親といると女の子らしさが遠のいていく。


「まあ、俺も同じだけどな。昔から。
 名前のこと大好きだぜ?」
「へえ」
「はっ、その内その反応の薄さもな変えてやっから」
「何さ、ちかちゃんにそのようなことを言われて光栄でございますとか言われたいわけ?」


すると元親はまたため息をついて、こちらを見ながらやれやれというように首を振る。


「今こんな受験とかで切羽詰まってる時に負担になるわけにゃいけねえってわかってる。
 だから、受験が終わったら名前に告白すっから」
「…そっか」
「何だ?俺じゃ物足りねえか?」


いつも元親といるのは当たり前で。
今でこそ、結構一緒にいれない時間が増えてきてるけど、それを一緒に寂しく思ってくれてるのかなと思うと少し嬉しかった。


「いや、私の未来に元親はどんな関係であれね、ずっと一緒にいる気がするからさ。
 たとえ、付き合ったとして別れちゃおうが、きっとずっと大事な幼馴染なんだよ。
 だからさ、嬉しいんだけど私にとっては当たり前というか。…ごめんね、こんなありがたみ感じない女でさ。どうする、前言撤回しとく?」
「しねえよ。ついでに言ったら別れねえからよ」
「結婚できなくなるじゃん」
「俺とすればいいだろ」
「そっか」
「そうだ」



付き合ったとしても今みたいな会話はずっと続くんだろうと思うと苦笑が漏れた。
だけど、元親と話す以前よりずっと足が軽くなった気がした。






  


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