もなかさんより/瀬戸内トリオ


 七夕の時期がきた。この時期になると、この街では「七夕祭り」といって夏祭りとはまた別の祭りがある。何かと祭りが好きなのかと疑われるほど、この街は祭りが多い。必然的にジンクスが出来てくる。
 例えば秋祭り、より多くの豊作物を取って売れれば来年その人の豊作がよく実る。ジンクスの一種だ。
 そして、この七夕祭りは───








「『誰かと一緒に織り姫と彦星を見つけれたら、その人と共にいることが出来るだろう』。」
「その”じんくす”とやらは叶うのか?」
「ジンクスとはただの噂話です。故に嘘話の可能性が大きいです。まぁ実際嘘だと思いますが。」
「なんでい、噂話かよ」









 場所は七夕祭りがやっている広場のベンチ。名前は座りながら飲み物を飲み、元親は立ってフランクフルトを手に話を聞いていた。
 何故2人がここにいるのか。一緒に同行していたもう2人、鶴姫と元就が名前と元親からはぐれてしまったのだ。それも2人して別々に分かれて。
 これ以上離れたら色々と厄介なため、とりあえず通りがかった屋台で気になったものを数個程買い、このベンチで待つことにしたのだ。








「それにしても来ないですね。3人にとって初めて来た地ではぐれてしまったから迷ってるはずですよね。」
「毛利はともかく、鶴の字がなぁ……」








 元親はぼやいた後、フランクフルトをパキッと良い音を鳴らして一口食べる。フランクフルトは元親が美味そうと思って買ったものだが、予想以上に美味しかったのか少し目を見開いて自身が食べたフランクフルトを見る。








「んめぇ……!」
「私的には元親さんがはぐれなかったことが一番の驚きなんですがね。」
「んあ?何か言ったか?」
「元就さんや鶴姫さんがはぐれるよりも元親さんがはぐれると思っていました。」
「……………」









 元親自身も本音を言えば今すぐにでも祭りの中に行きたいのだ。だが、元就と鶴姫のおかげでそれは叶わず、名前を1人にしたくなかったため今に至るのだ。







「別に行っても構いませんよ?ここに帰って来れるなら。」
「いや、名前1人でいさせるわけにはいかねぇよ」
「アニキっすね。」







 そんな会話をしていれば、誰かが名前と元親に向かって来てるのが見えた。誰だ?と元親は目を細めてその人物を見ると見たことのある顔だった。
 思い当たる顔なのは間違いはないのだが、元親はその人物を観察した。何せ、元親の知る人物にしてはやたらと荷物が多いからだ。






「誰だ?…………!?」
「どうしました?……あ、元就さん。楽しんできたようですね。」








 名前はあっさりと元就の姿を受け入れたが、元親は食べ終えたフランクフルトの棒を口から落としてしまうほど唖然とした。
 今の元就の姿は、両手に紙袋が破裂するのではないかと思うくらい入っており、頭には狐の面が飾られてあった。そして極めつけは右手に林檎飴。
 案外本人は2人がいない間に色々と楽しんできた様だった。








「貴様等、ここにいたのか」
「いたのかじゃねーよ!!何だよ、その格好!?俺より楽しんでるってどういう頭してんだよ!!」
「フン、我が楽しんでおると申すか、この鬼は」
「いや、かなり楽しんできましたよね。」







 2人にツッコまれながらも元就はペースを乱さずに、名前の隣の席に座り、荷物を両脇に置いた。








「我はただ歩いておっただけぞ。そうしたら女共が集まって一気にこのようになっておった。忌々しい………」
「ギャル&おばさんさいきょー伝説ここに現る、ですね。」







 どうやら被害を受けたのは元就の方だったらしい。そして、跡を追ってきていた人も何人かの女性がちらりと屋台後ろから眺めていたことに、更に苛立ちを隠せないでいた。
 そんなことは人知れず、元親は元就が帰ってきてからというもののソワソワとしていた。








「……何動いておる、長曾我部。あの女達が気になるということか」
「ちげぇわ!!!つか、女達って何のことだよ」
「………元親さん、もしかして、屋台見に行きたいんですか?」
「っ!!」







 元親は顔を真っ赤にして左手で鼻と口を隠すようにした。無理もない。元親含め、元就と鶴姫もこの時代の祭りを知らないのだ。特にこの中で一番祭りという祭りを楽しみにしていた人物は元親なのだ。
 すると、元就が来た道とは別の方向からこちらに来る人物が大きく手を振って合図をする人がいた。







「あっ………ありゃ鶴の字じゃねーかー!」
「何故堅苦しくなっているんですか?」








 さっきの反応をかき消すように元親はわざとらしく鶴姫が走ってくることを伝える。
 その鶴姫は全速力で名前たちのところに来ては名前の手を引っ張り、また走ろうとしていた。名前は顔の表情は変えないが、何事か少し驚いた。








「どうしたんですか、鶴ちゃん。」
「早く来て下さいー!海賊さんと元就さんも一緒に来て下さい!急がないと逃げちゃいますよー!!」
「逃げる?」








 よく分からないが、3人は(元就は動かなかったため、元親が無理矢理引っ張る形で)鶴姫のあとを追った。


 着いた場所は屋台が並んでいる所を通り抜けた先の時計台だった。ここに何があるのか、鶴姫以外全員分からずにいた。
 すると、鶴姫は指を指して皆に届くように大きな声で言う。








「織り姫と彦星ですよ、名前さん!」
「え……」








 鶴姫が指を指していた先にあったのは、時計台の上に小さくいる織り姫と彦星、の人形だった。その人形は可愛らしく、2人一緒にひっそりとその身を隠していた。
 そして、その人形がこの七夕祭りのジンクスそのものだった。








「これですよね、名前さんが言っていた織り姫さんと彦星さんって」
「ちっせー………”じんくす”だっけか?こんなに小さくて本当に叶うのかよ」
「ただの人形にしか見えぬわ」








 名前は思った。嬉しい、だが悔しいと。
 本当に見つけるとは思っていなかったから嬉しい。だが、それは叶わないのだ。
 元親たちは自分とは違う世界から来たことを名前は知っている。彼らは元の世界に戻らないといけない存在なのだということも名前は知っていた。
 だからこそ、名前は心の中でこう叫んだ。







 織り姫さんと彦星さんにお願いです。
 この日を忘れませんよう、お願いします。








「どうしましたか、名前さん?」
「………いいえ、お祈りしてました。」
「祈らなくても叶うんだろ?なら祈らなくてもいいじゃねぇか」
「祈るのは日輪だけでよいわ」
「そうですよ!これからも名前さんと一緒に居られるようにお願いしましたもん!そうですよね?」
「……そうですね、鶴ちゃん。」









 今だけは、嘘をついても許せますか?





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私の説明の下手さがたまにはラッキーを導いてくれたようでもなかさんよりいただいちゃいました!!
もなかさんは本当にすいません(>人<;)

でも本当に三人が可愛かったです〜



  


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