そして、私は仮入部もせずに剣道部へ入ろうと決めた。
友達には男ばっかりだしきつくない?とか心配されたけど入るったら入るんだという精神で結局入部届を放課後出した。

その後、担任の伊達先生に練習内容とかいろいろ教えてもらったんだけど。
興味本位で聞いた、理という人がここの顧問の人じゃないかとかそういう可能性が出てきた。
それでも本人に時間の関係で聞けないままその日の練習は終わってしまったんだけど、更衣室へ行こうとした時だった。

「田村さん!」

振り返って見ると声の主は斎藤先生で。
伊達先生との会話を思い出した私は不自然に反応してしまった。

「ん?どうしたの、大丈夫?」

その結果、心配されてしまった訳で少々自分を殴りたくなった。
私はただ「大丈夫です」としか答えられないし、先生の方も気を遣ってくれたのかその先何も聞きはしなかった。

「田村さん、ちょっと時間あるかな?」
「大丈夫です、予定は何もないですし」
「そっか、良かった。
 じゃあ一緒に帰れたらいいかな、校門で落ち合おうか」


先生にあとでね、と手を振られ軽くお辞儀して冷静装ってそこを去った訳だけど内心いろんな意味で怖かった。
だって、だって・・・いきなりの呼び出しだし。
あの先生のことをぶっちゃけ何か知ってる訳でもなくて。
ただ待たせちゃいけないと思って急いで更衣室で着替えて校門まで走った。



「お待たせしましたっ!!」
「大丈夫、今来たところだから」

何故か職員室の方が何かと更衣室より遠い気がするのに私より早く先生がいた。
それに慌てた訳だけど先生は何とでもないと男前な対応をしていた。

「じゃあ帰ろうか」
「あ、はいっ」

結局後を付いていくしかなかった私は最初から最後まで慌てることとなった。

「そうそう、いろいろ話したくって。
 何しろ女子が入ってくれたっていうのがやっぱり嬉しくてね」
「そういえば女子の先輩だけでしたっけ?」
「うん、だから二年後には紅一点になっちゃうね」
「それでも先生だって紅にはいるじゃないですか」
「そんな若くないんだからー、婚期迫ってるしさ」

穏やかに見ると先生は別に私を怒ろうとかそんな気は無いらしい。
そんなこんなでほっとする私。

「それで練習とかきつくなっちゃうし、今のままだと田村さんしか女子いなくなるけど大丈夫かな?」
「大丈夫に決まってます!!
 私剣道に対してのモチベーションだけは下がったことないですから!!」

そりゃよく知らない人がある意味師になってる私だもの。
叫びまがいの言葉は先生を驚かせ、そして、笑わせた。

「ははっ、そりゃいいや」
「・・・い、いいならいいですけど・・・。
 先生・・・先生は5年まえの教師だったんですよね」
「うん、そうだけど?」

笑われたのもちょっと恥ずかしくて話題を変えようと私の疑問点の話を出した。
だと言っても5年まえ、私が見た人は制服だったから・・・どうしよ、続けるべきかな。
でも、先生はもう当時も先生だったみたいだし。
でも、顔も似てなくはない気がするし・・・。

「もしかして夏祭りでこの高校のセーラーを着てたりなんか・・・」
「え、セーラー・・・・・・っ!!」

ハッとした顔をされているんだけど。
心なしか汗もかいているように見える。

「せ、せんせ」
「ちがっ、違うの!あれは伊達君が悪いの!
 私は罰ゲームで・・・・・・、ご、ごめん、取り乱したっ・・・」

意外だったけど。
どうやら本当らしい。

「あ、えーとそのことは秘密にしていただけるとー」
「先生がそう言うなら。
 でもあの時私先生に助けてもらったんです、本当にありがとうございました」
「え、助けたっけ・・・?」
「えー」

忘れられてる・・・?
そう思った時だった。

「honeyじゃねえか」

後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
振り返ると伊達先生。
しゃべってたせいか、他の先生が帰る時間までになってったんだとちょっと驚いた。

「あら伊達君・・・」
「どうも」
「よお田村もいたか」

もってなんだ、もって!
私はそんな風に乙女心が傷ついたー・・・ってこともなく、軽く会釈した。
まあ何かをいちいち気にしてそうな人には見えないし。

「そんで何話してんだよ?」
「あー・・・伊達君が私にセーラー服着せた時にこの子助けたかなっていう。
 私とにかくあの格好が恥ずかしすぎてあんま覚えてないんだけど・・・」
「ああ、そうか!」

斎藤先生が言葉に詰まるのと伊達先生が叫ぶのはほぼ同時だった。

「こいつどっかで見たことあるなと思ったらいつかの餓鬼か」
「餓鬼って言わないの!」
「お、おう、悪ぃ」

まあ餓鬼って言われても、それでも私が伊達先生を覚えてないのでこちらの方にも罪悪感があるんだけど。
というか、よく覚えてますねって感じだけど。

「まさかこうやってまた出会うとはな・・・」

「先生、確信できました!
 私先生のおかげで今まで剣道頑張れました!!」
「そ、そうなの?」

伊達先生には申し訳ないけど、今の私のテンションはぶっちゃけ凄く上がってる。
そりゃもう憧れの人が目の前にいる訳だから。
しかも顧問の先生だ。
好きなことして、好きなことの顧問の先生が憧れの人。
もう何この、ラッキーさ。

ただ私は斎藤先生の存在だけで浮かれた入部一日目だった。




  


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