「おかえり、遅かったじゃん」
教室に帰れば、作業を続けながら呆れたように笑う副委員長の姿。
「ごめんごめん、先生に忘れたんだったら自分で準備室まで持ってこいって言われちゃってさー」
よし、作業終わらせてしまうか!
そういきこんだ時だった。
値段やらをまとめている表が書かれた紙が滲んだ。
えっと思ってもポタポタと紙の上に落ち続けるそれは涙だったと気づいた。
「田村、ど、どうした!?」
「え、あ・・・私にもわかんないや」
慌てて涙を拭ってみるもののなかなか止まらない。
「何かあったのか?」
「い、いや、たぶん目にゴミが入った!!」
「・・・・・・」
原因はきっと先生のことを思ってのことだろうから。
我ながら呆れてしまうけれど、表情はまったくもって逆だった。
副委員長は背中をさすって落ち着かそうとしてくれるけれどそれが更に私を泣かす。
「ごめっ、そういうの、ひっく、弱い」
「別に今泣いてたっていいじゃんか。
田村が先生好きでいいけど・・・俺にとってはまあよくないんだけど。
俺は先生が好きで苦しんでるお前を見るなら先生が泣いて慰める方がいい」
・・・・・・私が先生が好き、って。
「わかってた?」
「なんとなく思ってたけど今日確信した。
だって俺今日お前がちゃんとノート出してんの見たのに必死で追いかけていったからさ」
「いや、それは私の勘違い―」
「泣いて帰ってくるもんか?」
きっと準備室で何があったのかはわかっていないだろう。
でもなんとなく私の気持ちは感づいているのかもしれない。
「いいなー、私も副委員長みたいに器用な人間が良かった」
「失恋するなら不器用の方が良かったよ」
「そんなもんなの?」
「お前が言うなよな、ばーか」
軽く頭を叩かれてしまったものの、なんだか吹っ切れたような気がする。
どうせ私は器用にはなれない、この先生きていく上でずっと。
だから不器用なりにちゃんとしなきゃならないんだ。
「・・・先生の方がどう思ってるかはわからないんだけどね」
怪しまれないようにさりげなくそんな言葉を吐いてみると少し笑われた。
「ははっ、もう爆ぜろよお前ら」
「っ、は、爆ぜれるように頑張るよ」
どう返していいのかわからず、ただ笑った。
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