先生に英語準備室まで連れて行かれると、何だかここへ来るのは久しぶりな気がしてきた。
だいたい委員長という名の雑用係として課題提出のためにここへは来ているのにもかかわらず。
「先生、変なこと言ってもいいですか?」
「Ah-,何だ?」
「抱きついてもいいですか?」
「っ・・・?」
こんな堂々と真顔で抱きついてもいいかなんて聞くのは初めてだと思う。
それで先生も驚いたみたいだったけれど、両腕を開く。
「名前、いいぜ」
先生の言葉に何かを答えることもできず、無言で抱きついてしまった。
「・・・先生今日は名前呼びなんですね」
「知ってか?
名前を呼ぶことで自分が誰のものなのか再認識することがあるらしいぜ」
顔を上げるといつものようにニタリと笑う先生。
ああ、変わってないな。
安心感に更に力を込めてしまう。
「寂しかったか?」
「・・・私が悪いんです、ごめんなさい」
「何かしたのか?」
「悪いことはしてないと思います。
・・・先生はどうせ私いなくても大丈夫なんでしょうけど」
何故か勝手に拗ねてしまい、名前の顔は更に下を向く。
俺がどれだけ我慢したかも知らねえくせに・・・。
「名前、怒るぞ」
「え?」
「俺がどれだけ我慢させられたと思ってる。
理由は教えねえわ、なのにちゃんと手紙渡すわ、安心したら他の野郎と二人きりになるわ・・・」
顔を無理矢理に上げさせて噛み付くように口付けを落とすと名前の顔が一瞬にして赤く染まった。
それでも、やっぱり離れた分は大きい。
止められないまま、名前の息が続くまで唇を重ねた。
「馬鹿なこと言って俺が何かやらかしても知らねえぞ」
「いやいや、今のは!
今のはノーカンですか、やらかしてないんですか!?」
「今のはただのskinshipだろ・・・俺がどれだけ待ってたと思ってる」
「・・・・・・」
「kitten?」
一度思いっきり抱きついて、すぐに力を緩めた。
「先生は私のこと好きですか?」
「Yes.」
心配そうに俺を見つめる顔。
確かに俺を見ているけれどとても不安そうで、なんとも言えない。
「私のことずっと好きでいてくれますか?」
「Of course.」
「私が立派な人間になるまで先生は待ってくれますか?」
「え?」
「先生に見合う人間になったら私を―」
「名前、落ち着け」
「・・・・・・・・・・・・」
自分で止めて黙りこくってしまった名前の頭に苦笑しながら手を伸ばす。
「ごめんなさい」
「何を謝る?」
「・・・」
結局自分が謝った理由がわからずに黙りこくってしまったが、今度はなんとなく微笑ましいのでいい。
「なあ、もしさ俺がずっと傍にいてくれって言ったら一緒にいてくれるか?」
「はい」
「俺はその答えだけがあればいい you see?」
我ながら甘ったれている。
それでも、名前が相手であればその甘さも厭わしくない。
溺れている。
「俺を好きでいてくれるならそれで十分だ。
・・・俺だって先のことはわからない、だけどさ、アンタと一緒にいる未来はなんとなく思い浮かべられるんだよ」
だから、俺を裏切るな・・・。
未だに笑わない名前に今はただそれだけを願った。
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