結局夏休みは休部届けを出したまま、その後はいっさい部活に行かなかった。
学校を明けてからたまに理さんとは話したりはしたけれど私に気を遣ってか、先生と剣道のことは何も話さなかった。
剣道の方は体が鈍ってしまうのは嫌で、一人でなんとなく素振りは毎日やっているのだからまだいいのだけれど。
未だ問題に残っているのは先生のこと。
必要最低限のことしか喋ってないし、私の方から避けてしまう。
そのままずるずるとしてしまった訳で。
体育祭も終わってしまったのにその実感がないほどに時間が流れるのは一瞬だった。
そろそろ文化祭になる。
体育祭は体育委員中心で動いていたけれど、文化祭はクラスのものだから前期から引き継がされた委員長の私が動かないといけない。
そうしたら先生ともちゃんと連絡とか取り合わないといけないというわけで・・・それまでになんとかしないとそう思っていた。
でも、自分ではどうにもできなかったので考えた結果理さんのところへ行くことにした。
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あまり話してなかったとは言えども理さんはというと快く私を理さん持ちの準備室に入れてくれた。
「なんだか久しぶりだねー、ほら座って座って」
「・・・失礼します」
とりあえず座ってみたものの、どう話したらいいのか、それが何だかごっちゃになってくる。
「はい、紅茶は大丈夫?」
「あ、大丈夫です!いただきます!」
理さんに淹れてもらった紅茶に一口口を付けてカップを置く。
「相談したいことがありまして・・・」
「そうだろうね、コーヒーでもないのに凄く眉間に皺寄ってる」
「え、あ、ああ・・・」
難しい顔してたのかなと慌てて頬を引っ張ってみる。
そうしたら理さんに笑われてしまった。
自分が悪いんだけどね。
「それで伊達君のこと?」
「っ、な、そんな、何で―・・・」
「それぐらいしかないんじゃないかなって。
剣道はこの前素振りしてたの見かけたからね」
何だかなんでもお見通しなのかな。
でも、そのほうが話しやすいというもので少し気が楽になる。
「伊達君が夏休みにね、名前ちゃんに嫌われたーって本気で落ち込んでたんだけど嫌いになった?」
「そ、そ、そんな訳がないです!絶対にありえないです!
たとえ先生に愛想つかされようが私はそんなことありえませんかりゃ―・・・」
必死で否定しようとしたら噛んだ。
なんか気が楽になったくせにどんだけ力んでいるんだと自分で軽く頭を叩く。
というか、穴があったら入りたい。
「大丈夫、そんなに否定しなくても。
それに伊達君が愛想つかせられるわけがないよ、本当にぞっこんだからねー」
「元親さんも理さんにはずっとぞっこんだったんですか・・・?」
「元親ねー、どうだったんだろ・・・。
まあ幼馴染で、元親引っ越すまでの小さい頃は別に普通に可愛がってて。
高校でまた会うまで凄い情がなくても遊んでてー、で、会っていきなり告白してきたくせに記憶喪失なって私だけ忘れやがって」
「え、記憶喪失!?」
思ってもみなかった単語に驚いた。
だって記憶喪失とか最悪一生思い出せなくてもおかしくないもので。
「ちゃんと思い出したんだけどね。
私がいるのに遊んでたときは悲しかったけどそれでも元親文化祭の実行委員でねー、ところどころ元の元親で・・・まあでもいつの間にか私のほうが好きになってたんじゃないかな?
そしたら相手とか関係なしで想ってること自体が幸せだったもんで」
ああ、私と一緒だ。
思っているだけで幸せ・・・。
「文化祭の実行委員ってちなみに今委員長がすることなんだけどね。
・・・そういや名前ちゃんはこれから先は伊達くんと一緒にやらないといけないんだね」
「そうなんです。
だからどうにかしないといけないと思っているんですけど」
「最近伊達君避けてたでしょ。
原因はなんなの?」
原因・・・つまり成実さんとことではあるのだけれど、言ってもいいのか、言っちゃ駄目なのか。
「先生のお家ってお金持ちで凄いところなんですよね?」
「確かに何気凄いよね」
「・・・それで先生がそれを蹴って教師になったのに、もしもバレたら大変なことになるって」
「・・・・・・名前ちゃん、それじゃ駄目よ。
ちゃんと言葉にしないと駄目、伊達君は器用な男に見せかけてそんなんじゃないの」
先生を私よりも長く見てきた理さんの言葉。
それは弱みを見せられた私でさえも、なんとなく感じてきたこと。
「理さん・・・」
「確かに相手の将来とか考えたら辛いかもしれない。
それでも在学中に結婚しようとする以外じゃだいたいのことは大丈夫なの。
だからね、直接言えなくても手紙でもなんでも書いてごらん」
手紙・・・。
確かにそれだったらまだちゃんと大事なことを伝えられるのかもしれない。
「好きだって伝わってないのは悔しいでしょ?
それに離れていかれるのはもっと悔しいし、寂しいでしょ?」
「はい・・・」
「頑張ってね」
「頑張ります、私・・・ちゃんと先生に伝えます」
「よし!
じゃあ一段落したら部活にも来るんだよ」
「はい!
新人戦までには間に合わせます!ありがとうございました!!」
やっぱりどことなくすっきりした気がする。
確かに成実さんに言われたことは気になってしまうことが多いけれど、私が好きだということが伝わっていないのはこの上なく悔しい。
だから、ちゃんと伝えよう・・・私の気持ちを。
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