結局先生からは夜になるまでかかってこなかった。
でも先生は結構お金持ちの家みたいだし、なんか忙しそうだよね。
仕方ない・・・でも、私からもかけていいって言ってたし。
私は思っている以上に幸せなんだ、そう確信した。
「さすがに練習になったら来るかな」
お盆が明けたら練習だと、思わず綻ばせてしまう顔を手で押さえた。
そうだ、それまでに体力落ちてたら駄目だ!
夜は涼しいし、走りに行こうかな。
時間が遅くならないうちに行こうと立ち上がったその直後に電話が鳴った。
番号は先生からで、さっき電話したばかりでどうしたんだろうと不思議に思ってしまったけど嬉しい気持ちが勝った。
「もしもし、先生ですかっ?」
『・・・あらら、梵のお相手は教え子か』
「へ、え?」
先生からの電話だというのに相手は先生じゃなかった。
でも聞いたことのある声。
たぶん昼に聞いた先生に帰省させた人。
『はじめまして、俺は伊達成実。
梵の従兄弟だよ』
「ぼん・・・?」
『梵ってのは政宗のこと。
伊達家ってのはなんか何気に昔からのしきたりとかあっちゃってそんで昔は政宗も幼名があったの。
昔は梵天丸、今は元服して政宗』
「そ、そうですか」
だからあの時梵って。
でも今はそういうことを聞いている場合ではなくて、何でこの人が私にかけてきたのかが問題で。
「あの―・・・」
『別にね、君に害を与えるつもりはないんだよ?
・・・ただ梵と別れてくれるのなら』
”別れる”
確かに成実さんはそう言った。
別れるというのは・・・元の関係に戻ること。
相手は先生だし、背徳的であることはわかっている。
それでも、私は先生が好きだ。
「どうしてですか・・・」
『その様子じゃ思い当たってはいるのかな?
でも残念、きっと俺の理由とは違う。
そうだね、別れなくていい・・・だけど梵と元の関係に戻ってくれるかな?』
「嫌です」
『へー、結構言う口なんだね。
じゃあこのことを学校に公言したらどうなると思う?
家の事業を蹴って教師になった梵はどうなるんだろうね』
バレてしまったら・・・。
何度考えてきたことだろう。
バレたら先生に迷惑がかかる、しかも初耳であったわけだけど先生がわざわざ選んだ道を私が消してしまうことになる。
「どうして、先生のご親戚の方なのに」
『ああ、梵は大好きだよ俺。
でも許しちゃいけないことはいくらでもある、それだけだよ』
「・・・・・・・・・」
『よく考えてね、梵のために』
電話は一方的に一方的に切れた。
私は力が抜けてしまい、そこで崩れ落ちた。
先生のために別れる・・・?
あの先生ならそんなこと気にしないだろうけど。
だからこそ私に電話をしたのだろうか。
「ははっ・・・私は本当駄目だ」
今はただ携帯を放り、ベッドにうなだれることしかできなかった。
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