「それで大事な話って?」


結局元親が疲れた私を気遣ってか、御飯を食べて私が風呂から上がってからすることになった。
もうすぐ日付の代わりそうな時間。
私の命はぎりぎりだった。
今はリビングでお茶を飲みながら向かい合って座ってる。


「名前、俺の名前を言ってくれ」
「え、私元親の名前は知らな―」
「風邪ひいた夜見たろ、毛利の野郎が口に出した名前が俺の名だ」


あの日見た、鬼の形相の元親。
”長曾我部元親”の名。
その名前を口に出せば私は今すぐに元親から解放されることになる。

だけどもう元親といることの幸せを知ってしまえば・・・
独り彼を想い続ける未来と、彼の血肉となる未来なら私は後者を選ぶ。


「夢は忘れてしまうでしょ、覚えてないの」


その結果の私の返答だった。
本当はあんな夢忘れられるはずがない。
大好きな二人の苦しそうな顔。


「だからね言えない、元親にとって辛いことかもしれないけど諦めて―」
「名前が覚えてるぐらい俺にだってわかるからよ、自分が嘘つくの下手なことぐらい知っとけ?
 お願いだ、俺を死なせてくれ」
「死ぬって・・・」


意味のわかっていない私を見ながら元親は話を続けた。


「昔話にある鬼六の話って知ってんだろ?
 あいつは鬼だから最後川の中に消えたって、俺は元は夢で過去を見せたとおり人間だ。人間が消える、つまり俺に訪れるのは死だ」
「でも鬼になって生き延びてきたのに今更どうして」
「生き延びたって言っても結局俺人間の肉なんて食えるわけがなくてほんっと命ぎりぎりなとこで生きてんだ。
 でもな、名前」

初めて知った事実に驚く。
元親が人間らしいって思ってたけど、鬼になろうともずっとずっと元親は人間だったんだ。


「俺名前を人間として愛したい」
「・・・へ?」


私を、人間として、愛したい・・・
混乱状態の頭で必死に考えてみるとつまりそれは今鬼の状態で私のことが好きだということになるんだけど。

「え!?」
「んな驚くか?
 出会ってから本当に自分でも最低なことばっかしてた、だけど気付いたら好きになってた。
 今の名前に言ったって迷惑なだけだってわかってる、だから生まれ変わったら絶対惚れさせてやる」


私が迷惑?
惚れさせてやる?

元親の言葉につい笑いが出てきてしまった。


「馬鹿、もう惚れてるよ。
 私だって認めたくなかったけど元親のこと好きだよ。
 元親のために死んでもいいとか考えてたぐらい好きになってた」
「俺と一緒に生きちゃくれねえか」
「喜んで」


既に時計は11:59を指している。
本当にぎりぎりなところだった。


「絶対戻ってくる」
「戻ってこなきゃこれこそ私が鬼になるんだから・・・ね。
 愛してるあなたを、”長曾我部元親”」



電子時計がピピッと鳴って12時を告げた。
その瞬間触れた唇はしょっぱかった。





  


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