何でこんなことになったのか、今でもわからない。
私は助けてくれた男性を家に招き、ただ今手料理を作ってる。
・・・いや、あの。
助けてもらったから恩を返そうとかいう、そういうのがあるのはわかるんだけど。
何でごはん作ってるんだろうね、私。
彼氏もろくにいたことないからこうやって緊張しながら料理したことないし。
というか、あの人凄い寛いでるように見えるんですけど。
今はテーブルに軽く伏せてたまに腹減ったと呟きながらテレビを見てる。
そんなに減ってるんだなと意味のないことを思いながら簡単なものを作った。
それをテーブルまで運び、私の分とその男性の分を置いた。
「軽いものしか作れませんがどうぞ」
「おう、悪いな。
じゃあいただきます」
さっそく待ってましたとでも言うように箸を取り、味噌汁を啜った。
うめえな、とかそんなことを言ってくれるので嬉しくなりながらも私もご飯を食べ始めた。
「そういやアンタ名なんて言うんだ?」
「斎藤名前です、この度は助けてくださりありがとうございました」
「おう、俺は・・・そうだな、元親ってことで」
「ことで、・・・?」
名前は言いにくいらしく私は深く考えないようにした。
それにしても食べっぷりは凄いもので、ご飯6杯、味噌汁3杯、それにおかずといったものだ。
一体どこから来たんだと不思議になってしまう。
『御馳走様でした』
そうやって言う頃には既に日は変わろうとしている。
今日は残業があった分疲れたなとしみじみ思う。
「お粗末様でした」
「ありがとな、うまかった」
「いえいえ、元親さんのお口に合って良かったですよ」
「そういうもんか?」
運ぶのを手伝ってもらい、皿洗いをした時だった。
どこかからかくーという音が聴こえた。
音をたどると元親さんのお腹。
「足りませんでした?」
「いや、そういう訳じゃないんだけどよ・・・・・・腹減った」
「どんだけ食べてなかったんですか、もう・・・。
今から残りですけど作りますから座っといてください!」
背中を押してテーブルの所で待機してもらおうとした。
元親さんも素直に押されてくれたが、少し歩いたところで振り返った。
その動きで私の方が下に置いてあった鞄に躓いた。
元親さんが手を回し、衝撃を和らげてくれたが腰を打ってしまったため少し痛みはあった。
「すいません」
「名前・・・・・・」
目の前には元親さんの顔。
だけど、さっきとどこか違う。
「元親さん?」
「腹減っちまって仕方ねえんだ、喰ってもいいか」
「だから今から作りますから」
「違う、アンタをだ」
・・・・・・・・・・・・ん?
アンタって言ったのは私のことで。
アンタ=私であって、私に直してみると元親さんは私を食べてもいいかと言ったと考えられる。
「何言ってるの!?」
「腹減っちまったんだもん、仕方ねえだろうが」
私の体を抱え、部屋のベッドに押し倒した。
展開についていけず、私は未だに混乱を隠せない。
「ちょ、元親さん?」
「俺らは鬼だ、人間の食事だけじゃ腹は満たされねえ」
「鬼・・・?」
元親さんが自分を鬼と言ってるんだろう。
それはわかる、けど意味がわからない。
「喰わしてくれよ、アンタを」
そう言ってニヤリと笑った元親さんに鬼の姿が重なった。
視線を逸らせず、私は鳥肌が立った。
やっぱり今日は運が悪いのか、そう開き直しか他はなさそうだ。
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