「いつもより大人しいじゃねえか」
「病人に暴れろと?」
「いや、そういうつもりじゃねえんだがな。
そうだなまだ治ってねえもんな」
それなら無理させちゃ駄目だよな、元親はそう言うと少し距離を取った。
さっきまで感じていた唇のぬくもりが離れたことに物足りなさを感じてしまったのか自分の手が一瞬動きそうになった。
幸いなことに元親に気づかれていない。
けれど。
この先、たとえもう数日としか残っていないとしても私はこのままだとどうなるの。
手が伸びたのは元親がそれほどまでに恋しくなったからなの?
それとも熱のせい?
「名前?」
俯いた私を不思議に思ったのか元親がまた距離を詰める。
ああ、苦しい。
胸がきゅーっと締め付けられる。
「大丈夫か?苦しいか?」
「・・・大丈夫、なんか病気で寝てる時っていつもより人肌恋しくなるとか言うじゃない。
本当自分でも子供っぽいなって思ったけどでっかいぬいぐるみでも探してくる」
はは、と自分でも笑いながら頭が冷静に動く。
そして気づく。
いや、本当は気づいていたのかもしれない。
私が認めようとしていなかっただけで・・・。
確かに元親のこといつの間にか好きになってた。
だけど、それでも認めたくなかったことはあった。
ずっとこのままいたいとは思いたくなかった。
元親がこうしてくれるのは鬼だから。
私が惚れることを望んでも、その先は望んでもいない。
だから来るはずのない未来。
望んでも叶わない未来。
思いたくなかった。
考えたくなかった。
求めたくなかった。
「俺じゃ駄目か?」
大丈夫と言えばいいのに。
熱のせいだと言うのは甘えなんだろう。
それでも少しの時間だけでもいいから・・・そう思って差し出された手を握り返した。
今私はどんな顔をしているんだろう。
ただ少しでも悲しい顔は見せていませんように。
眠気に襲われて薄れていく意識のなかそう願った。
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