濡れた唇に手をやると改めて元親がキスしてきたのだと自覚する。


「慣れたか?」
「え?」
「だから・・・俺といるのに慣れたんじゃねえのかって」

キスされたことに自覚したのが遅かったのは病人だからか、それとも慣れたのか。
・・・わからなかった。

「慣れたら何?」
「何もねえけどな、初めはあんなに抵抗してきたくせに―」
「元親・・・終を見るのは私だと思わせたいのね、相変わらず性悪なことで」

軽く笑いながら元親の鼻をぎゅっと掴むと元親から一瞬呻き声が聞こえた。
その声に気持ちが少し軽くなる。


「おい何笑ってんだよ!」
「さあ、元親が滑稽だったんじゃないの?」
「はあ!?」

むっとした顔に、少し怒ったような声に・・・ああ、元親は今確かにここにいる。

元親が好きか・・・。
好きなんだろう。

でも、考えるだけということに少し疲れた。


「でもなんか名前らしいじゃねえかよ」
「へ?」

頭の上に手を置く元親。
自然に目が合うと、なんだかホッとする。

「なんか真面目に元親のこと考えた自分が馬鹿みたい」
「俺のことか?」
「元親のこと好きなのかなって」
「で、どうなんだよ」
「好きだよ」
「え!?」

何気なく笑って言ってみせれば聞いてきた本人が驚いたような顔をする。
それも無理ないかとは思うけれど。

「元親のご飯おいしいし、家事してくれるし、看病してくれるしさ。
 うん、好きだよ」
「好きって・・・アンタなあ。
 言う相手が俺じゃなけりゃ誤解されんぞ」

案の定私の付け加えた言葉にひっかかっている。

『愛してる』

そこまで言えば気づくのか、この鈍感な鬼は。
いや、私が言う限りは気づかないのかもしれない。


「まあいい、でも油断してっと惚れちまうぜ?」

もう惚れてる。

なんて言うこともできるわけがなく。
顎を取った元親に大人しくキスされた。





  


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