「名前・・・」
「は、はいっ」

ベッドまで連れてこられてゆっくりと降ろされていつになく真面目な顔して名前をよんでくるものだから、つい敬語になった。

「どうしたんだよ、んな緊張してるみてえになって。
 そういうところも可愛いんだけどな」
「っ、えーっと、元親、やっぱ私望んでないってことで」

顔が近いうえに可愛いと言われて笑われただけで無性に恥ずかしくなった。
本心じゃないってわかっていたって元親自体がかっこいいし、意外にそんな台詞が似合っているのだ。
さっき見たドラマのようにスマートなイケメンが言っているみたいじゃなくて、なんかアニキ肌の人が可愛がってくれているみたいで。
性欲とかそんなものではなくて、優しさが心を埋め尽くそうとしている錯覚に陥ってしまう。


「名前、恥ずかしがるなよ」
「・・・アニキ肌ね」
「っ」

一瞬元親の顔が歪んだ気がした。
別にアニキ肌っていうのは悪い意味で言った訳ではなく、むしろ私が言っているのは褒め言葉なんだけど。
だけど元親は気にしていないと言うようにさっきと同じように笑っている。
やっぱり私たちは心までの干渉はできない。
元親は体を求めていても心までは望んでいない、ただ世の女の心を掴もうとしていたのは好きにならせればその分欲が増えていくからだろう。
鬼の餌となる人間の欲―・・・。

「元親が気にしてること何か言ったならごめん」
「別に気にしてねえよ、だから、だからっ・・・・・・」

冷静を装うとして入るが明らかに普段と様子が違う。

「元親、無理しないで。
 そんなに動揺してるのに無理しないで、ね?」

他意はなく元親を抱きしめた。
抱きしめた体は震えているような気がした。
泣いてはいない、けれどこんなにも余裕を失くした元親を見るのは初めてだった。


「名前、俺は何に見える?」
「鬼って言った方がいいの?
 ・・・元親は元親、私が見るこんな姿も元親でしょ」
「はっ、んなこと言う女はアンタが初めてだな。
 鬼だ、俺は・・・まぎれもなく鬼に、なったってのにな?」

あくまでも自分を鬼だと言う元親に私は何も言えない。
出会ってまだ一日。
一緒にご飯を食べて、体を重ねて、寝て。
初対面でありえないことをしたというのに初めて元親らしいところを見た気がした。


「名前、アンタも変わったやつだな。
 こんな鬼に優しくするなんぞ」
「鬼だろうが人間だろうがそんな顔でいたら言葉かけるぐらいするって、いくら私でも他人の不幸に喜ぶことはないからね」
「他人の不幸は蜜の味って言葉はあるけどな」
「一言多い!」

ぺしゃりと額を軽く叩いてみれば、元親は吹き出した。
余計なお世話だと言われると少し思っていたから、笑ったところを見るとホッとする。


「ありがとな、さて今夜はたっぷりとお礼してやるからな」

しまった・・・。
またしてもだった。
寝れるチャンスを奪えず、組み敷かれる。

ただ口付けを落とす元親の表情が優しくて、今更ながらにどうして元親を連れて帰ったのか考えては後悔する私がいた。






  


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