05

どうして、今頃弥三郎のことなんか思い出したんだろう。
よくはわからないが、突然に思い出した。


あれからもうだいぶ経つが、どうしているだろうか。
もうどこかへ嫁にでも出されているのだろうか。
それとも、いい縁が見つからず、のままなんだろうか。


約束はもちろん、叶えられていない。
叶える機会も好機もなかった。

所詮、子供同士の口約束。
よくも知らない相手に会いに行くほど難しいことはないだろう。
増してや、十数年前に少しだけ会った相手。
どうしようもない。
手元には簪だけが残っていた。



「簪が付けられるように、かー・・・」

弥三郎の言っていた言葉を一人静かに片手に酒を持って思い出していた。
あれから自分に変化は特になかった。

相変わらず、自分のことを人前では”俺”と呼ぶし、男の身なりをしたままだ。
変わったと言えば、自分の中で”私”と一人称ができあがったことか。

私と、お館様の前でもいうことができるようになった。


弥三郎がいなくなって、私は変わったと言えば変わった。
変わらなかったと言えば変わらなかった。
どっちつかずだ。


ただ、会いたいと思う気持ちは変わらなかった。

  


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