38

『野郎共ー、今晩大事な話があるから集まってくれ』


元親が昼間にそう声を掛けてもう数刻が経とうとしている。
いつの間にか話をしなければならない時間だ。

すでに大広間に人が集まっている。
此処には一領具足だけでなく、重臣の方々までもそろっている。

そんな中元親が真ん中を通り、私も後ろを付けていった。


「こんな半端な時間に呼び出しちまって悪いな」
「アニキの為ならどこだって行きやすぜっ」
「そうです、それで・・・大事な話とは」
「ああ、そうだな、他ならぬこいつのことだ」

私に視線を流す元親。
瞬間に私に視線が集まる。
覚悟はできていた、ああ、できていたさ。
だからってなあ、此処まで圧力を上げる必要もないと感じる。
そんなことを思っていても何も話は進めないので私は一歩前に出て、膝をついた。


『孫八っ!?』

見知った奴等からは驚きのような声が聞こえた。
私はその声を何とか遮り、頭を下げた。
そして、ひとつ深く息を吸った。


「皆様・・・俺はっ、いや、私は女です」



『っ!?』

もう声は出なかった。
それほど驚かれているのは確かなんだろう。
非難を浴びる覚悟もできていたが、これはこれで逆にきつい。
そして、ずっと一緒にいた軍の人たちの顔を見れず私はぎゅっと目を瞑った。

「・・・理、顔上げろや。
 やっぱりだ、俺の軍の中にゃお前を非難する奴はいねえだろ」
「え・・・」

元親の手が肩に掛かるのを感じ、私はそっと目を開けた。
そこには私を拒絶するような顔で見る人なんて一人もいなかった。
逆にやっぱりそうだったか、という顔の人までいる。
というか、ほとんどだ。


「今までずっと騙していて申し訳ございませんでしたっ」
「孫八殿・・・と呼んだら良いのか?
 我等は元親様の納得できる意向には従ってきた、それは重臣とて半農の一領具足とて同じことだ。
 今頃非難はせぬ」
「ずっと騙してきたのにも関わらずですか・・・」
「長曾我部が大きくなったのは他ならぬ孫八殿のおかげだと言うても過言では無い」

温かく見守る重臣の人たち。
そして、元親と結婚すればいいなどと野次を飛ばし始める同僚たち。

元親の方を向いてみるとあくまでも自分の予想通りという結果を見せつけたいらしい。
私はそれに苦笑する。


「やっぱり此処は他とは違いますね」
「他とは違うのが長曾我部軍よっ!」

豪快に笑う元親。
アニキアニキと掛け声が増す。


そんな中だった。
冷静になっている人もいた。

「して殿、孫八殿はこれからはどうするおつもりで・・・」
『あ・・・』

忘れていたのを思い出して周りは一斉に焦りだした。
元親も焦っているように見えるのは見間違いだと願いたい。

「こ、こいつはよっ・・・・・・軍師だ!誰が何と言おうと長曾我部軍の軍師だ!」
「ずっと軍師のままで?」
「戦がなくなりゃ俺の嫁になったりー・・・」
「はあっ!?」

私の驚いた様子は一切目に止められず、拍手が起きた。

『やっと殿も女子を取られるかっ』
『アニキがついに、ついに・・・っ!』
『元親様・・・我らは嬉しい限りでー』

いつの間にか口を挟めないような状況だ。
それでも、私の中でそれもいいかもなという思いが少しだけ芽吹いた。




それにしても、やっぱり此処は私が思っていたところと全然違った。
いくら周りと変わっていようがそこが長所となる。

だから、長曾我部に天下を獲らせてやりたいと本気で思った。
私を拒まない、長曾我部に。





  


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