36

「元親話がある」

もうずっと気まずいままでは仕方ないと私は謝ろうと決めた。
でも、正直言って私はたいして悪くないとは思ってる。

「孫八か、俺もある。
 長くなるけどいいか?」
「こっちも場合によってはそのつもりだ。
 二人きりで話がしたい」
「そうか、なら今日お前は休みでいい。
 海にでも行かねえか?」


何気なく外観を見た元親はそう言った。
今日はいい天気に恵まれていたもんで日差しが気持ちいい。

「わかった」









海に着くと潮の香りがした。
私にとっては潮の香りは馴染みが深い。
何たって海軍持っているぐらいだ、元親からもいつも潮の香りがする。

「それで元親、話って?」
「そこは言い出しっぺの孫八からだろ。
 南蛮じゃ女が何でも先らしいぜ?」
「そうか・・・まあいいんだけどな。
 話っていうか、聞きたいことなんだけどな。
 元親は正直に私のことをどう思ってる?」
「私になったか。
 俺が理をどう思ってるかか・・・変わったつもりはねえぜ?
 俺はお前が好きだ」

軽く笑ってそう答えた。
でも、私が期待しているのはそう言うのじゃないんだよ。

「軍の一人としてか?
 野郎共と一緒か?」
「俺にとって孫八はそうだ。
 でも理は本気で惚れてる女だ」
「じゃあ何でそんな簡単にー・・・え、元親?」

よく見ると元親の顔はほんのり赤く染まっていた。
日のせいかと思ったけど、ここは日陰だ。
日のせいな訳じゃない。

「だからっ、こっちも恥ずかしいって思ってはねえが・・・何回も言わすなよ」
「お、おう。
 それでだ、私が恋してるって言ったらどうする?」
「嫁にする」
「孫八を捨てるか、私自身を捨てるか?」
「どっちも取る」

それ以上の嬉しい言葉は無い。
でも、違う、違うんだ・・・。

私の問題は簡単じゃない。

「私がもし嫁ごうっていうもんでも長曾我部にいられなくなるだろうが」
「それでもな、野郎共は俺たちが祝言あげることができたらいいって言ってんだぜ」
「それは私が男として見られてるからだ!
 私が女だと話は別だ!
 重臣の方たちだって地位もない私を嫁に等絶対させない」
「俺が惚れてる女を嫁に迎えて何が悪い」
「いつだってそうだ、元親・・・お前は行動が向こう見ずすぎる」

やっぱり私は此処にいるべきではなかったんだと思えてくる。
あの時此処の海でお館様と逝ってしまえば良かったんだ。

「元親、元親が私を雇うのはもう何も言わない。
 でも私のするべきことが終わったら本山に男のまま返してくれるか?」
「何でだ、さっきお前俺に恋したってー」
「したら、の話だ。
 私だって恋したとかそういう納得してないんだよ、言われたってわからないんだよ」
「じゃあお前の心はどこにあんだ?」

結局は私には選択肢は二つしかないんだろう。

弥三郎か、元親か。


「わかった、弥三郎の気持ちは此処で捨てる」
「お、おいー」
「元親への恋心は私には自覚がまだないんだ、無かったことにすればいい。
 これで私の心は空っぽだ」

二つを捨てれば、私の心は空っぽになったはずなのに。
なのに、涙が零れた。

「弥三郎はお前にとってなんだったんだ?」
「初恋など叶わないものだと言うだろ?
 しかも相手は女だ、男色あっても女色はないだろ」

「弥三郎は男だ!」
「元親が弥三郎の何を知ってるんだよ・・・」
「俺が、俺が弥三郎だ、ほら」

元親が着物の下から取り出したのは首飾り。
私が弥三郎にあげた母の形見の首飾り。

「俺の幼名は弥三郎だ」
「じゃあ元親が弥三郎なのか・・・?
 気づいてたのか?」
「ああ、俺はもうっとくに気づいてた。
 でもお前は俺のせいで傷ついてたから言おうとは思わなかった」
「じゃあ何で今・・・」
「お前の為とか言って結局は俺が逃げてた」

元親が言わなかったのは恐らく私が泣いてしまったせいだろう。
もし私が泣いてなければ感動の再会だってできただろう。

でも、今だって泣いてる。

「理、我慢できなくなっちまってお前に接吻なんかしたことは謝る、悪かった」
「私もいろいろ悪かったな」
「それでもだ、俺の気持ちに偽りはねえ」
「私が女として好きだということか?」
「ああ」

元親は優しく私を抱き寄せた。
無理矢理に接吻はされたくなかった。
それでもこうやって抱き寄せてもらうのは好きだった。

「我儘で悪いな」

そうやって苦笑いした元親。
笑顔の元親を見ていたいのに叶わないのはどうしてなんだ。





  


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