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『理、お前が苦しむなら俺はこの手を止めねえよ』

夢に続きがあった。
お館様に殺されたはずの元親がいつの間にか生き返ってて今度は弥三郎に槍の先を向けている。
お館様はその場にはいない。

もうどうなってるの?

『理、君のことが好きだった』
『お前はもういないんだ、黙りやがれっ』
『黙るのはそっちの方だ、僕はまだいる』
『黙れっ』

元親が槍を弥三郎に振り上げた。

『止めてえええええええ』

ザシュという鈍い音が聴こえた。

『弥三郎おおおおお』

もうそこに弥三郎の姿は跡形もなく消えていた。
残ったのは私が渡した首飾りだけ。
そして、私の涙だけだった。





「元親・・・っ」

起きたとたんに元親に無性に会いたくなった。
それでも、今の状況を思い出して足を止めた。

「酒でも飲みに行くか」

やりきれない思いを胸に私は夜の城下へ出た。




酒を飲みに行くといくらか見知った顔があった。
軍の人たちだ。
城に住んでるのは全員ではないためだと納得がいった。

「孫八との無駄なんて宴の時ぐれえだもんな」        
「そうだな、普段は住むところも違うもんな」
「っていうかせっかく抜け出してきたんだから花街にでも行かねえか?」
「い、いや俺は女を抱くのはあんまり好まねえんだよ」
「んな遠慮すんなって!
 こんなことができんもの若いうちだけだぞ、ほら行こうぜっ!」


女と言う以外断る理由が見るからず、私は花街へ連れて行かれてしまった。





                                       「そこのお兄さん、ちょっと寄ってってよ」

そう何回声を掛けられたことか。
花街についてもお勧めの所があるからと言われ連れてこられたのは一見普通の建物だった。

「初心な孫八には持って来いだ、此処は抱かなくても大丈夫なんだよ、行って来い」
「で、でも、俺はっ」

背中をどんと押され、少量の金を投げられた。
後ろを振り返ってももうそこは客通りしかなかった。


「あら、お若いお客さんで」
「・・・悪いが頼めるか」
「はいはい、では案内しますんで〜」

後ろを付いてくがやっぱり複雑だ。
抱く気は無いと言ってもこんな時間にまで女子を働かすというのだ。

「では、こちらで。
 ありゃお客さんもしかして長曾我部の方の・・・」
「あ、ああ。確かに俺は長曾我部の所のもんだが問題あったか?」
「い、いえ、滅相もございませんっ!
 とびきり上等の連れてきやすんでー」
「そんなのは連れてくるなっ!
 話せる奴なら誰でもいい」
「へ、へい・・・」

さすが長曾我部家だ。
名は知れ渡ってる。
そんなところの男が誰でもいいと女をとるものだから驚いたんだろう。
笑みを引き攣らせて出て行った。

逆に気を使わせたかな・・・。
はあ、全部元親のせいだ、そうだ、私は悪くないんだ。


少ししてからだった。

「・・・エイでありんす」
「俺は孫八だ。
 来てもらったて悪いが俺は女を抱けねえんだよ」
「抱けないと言いますと?」
「理由はわからねえかな?
 悪いがそれは言えねえな、話だけ頼めるか」
「あ、はい・・・」

もう女であることをばらしてもいいだろうかとも思ったが遊女は情報をいろいろ持つ奴等だ。
うかつにばれても仕方ない。


でもまあ日頃女子とそんなにわいわいと喋れない訳だ。
というか、振り返って見ればそんな風に喋ったことなかった。


「・・・だという訳だ」

恋の話が盛り上がると聞いたことがあり、知り合いの女子が困っているという設定で元親や弥三郎の事を名を伏せて相談をしていた訳だが。

「要するにその子二人に恋をしてるんじゃ」
「え、俺ー・・・あいつが二人にか?」
「ふふ、よっぽど初心な人なのね。
 きっと今一緒にいる人はいろいろ抑えてるわね」
「そうか・・・」

艶を出した笑みを見ると同じ女として何だか泣けてきた。
世の中ってさ・・・理不尽だな。

というか、元親が抑えてるって聞いたことあるなって思ったら。
確か親泰殿が言ってたんだよな。


「でも、幼馴染の方は会えないんでしょ?」
「ああ、可哀想にな」
「案外可哀想だとは思いませんわ。
 だって、今良い殿方がいるというのに他にも想い人がいるなら複雑な人間関係に置かれるでしょう」

確かに弥三郎と元親が並んだら複雑だな。
でも、私元親に恋しているとは思ってもみなかったぞ。


「では、過去を捨てろと?」
「ええ」

遊女の笑みは冷たくも温かくもなかった。
ただ現実を見据えた笑いだった。




   

  


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